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診療所を後にした俺たちは、街をぶらつくことにした。
「いやー、腕が自由に使えるってのはいい事だなー」
「人は失って初めてその大切さに気づくのだよ、ヒロくん」
妹から紙袋越しに「なんかカッコよく言ってやったぜ! どやぁ!!」という気配を察し、俺は「いや、失ってはねーよ」と、真顔で妹の頭にチョップを食らわせる。
「いったーい! 暴力反対!」
「これは暴力ではない。教育だ」
「いやいや、これは立派な暴力だよ。体罰だよ! こんなに可愛い妹の頭に、大きなたんこぶ出来たらどうするのさ!?」
「安心しろ、妹よ。人間は案外丈夫にできてるから、このくらいなら大丈夫だ」
俺は「多分な!」とつけ加えて、妹を鼻で笑う。
「ヒロくんのチョップの威力は、瓦も割れるレベルだよ!!」
「むっ、失礼だな。兄はか弱いから、瓦割りなんてしたことないぞ」
「か弱い人間は、学生時代にリンゴを握り潰す練習したり、何個もキーボードを壊したりしない……って、まってまって。何気に紙袋を外そうとしないでくださる? ちょっ、お兄様?」
俺はこれ以上この妹に口を開かせていると、昔の黒歴史やらなんやらを掘り返されそうだと判断し、黙らせるために妹の紙袋へと手をかけた。
「ヒーナーコーちゃーん? それ以上ペラペラとお兄ちゃんのお話するなら、この紙袋取っちゃおうかなー?」
「いや、もう取ろうとしてる……って、まって、分かった! 分かりました! これ以上は喋らない! ので、紙袋から手をお離しください! お代官様!!」
妹から言質をとった俺は、そっと紙袋から手を離す。妹はと言うと……言わずもがな、伊織とセージの後ろへと避難した。
「ヤヒロさん……あまりヒナをからかわないでください」
「ヤヒロさんとヒナコ様は、今日も仲良しですね」
セージの言葉に「「どこが?」」と、俺と妹は同時に質問する。
すると我らが幼なじみの伊織くんから「そういうところが、本当にそっくりなんですよ。アナタたち兄妹は……」とため息混じりにツッコまれた。
「失敬な! 俺たちは赤の他人だぞ! なぁ、おヒナさんや!?」
「そうだよ! 戸籍上と遺伝子上は兄妹なだけで、真っ赤っかな赤の他人だよ! ねぇ、おヒロさん!」
「それを世間では『血縁関係』というんですよ!」
「やっぱそっくりじゃねーか、お前ら」
伊織のキレのあるツッコミ。さらにロキの冷静かつ、冷ややかなツッコミを同時に受ける。
「お前もあんなののお守りするなんて、大変だな」
「長い付き合いですし、慣れてますから……」
ロキが伊織に、哀れみのこもった視線を向ける。そして二人は、俺と妹。そしてセージへとそれぞれ視線を向けては、同時にため息をついた。ちょっとそこ? それはだいぶ、失礼じゃあないかい?
「そういえばロキ、今日は何処へ行くの?」
ロキにため息を疲れたことを、まったく気にしてないのか……それとも、そもそも気づいてすらいないのか。セージは笑みを浮かべながら、小首を傾げる。こら、セージくん。君も少しは、ため息をつかれたことに対して怒りなさい。
「そうだな……ちょっと鑑定してもらいたいもんがある。ついでに質屋にも寄りたい」
「それじゃあ、シラギク様のお店だね」
「そうだな。それに、コイツらの魔力量や属性についても……色々と調べとかねーとだろ」
「どーゆーこと?」
淡々と進んでいく二人の会話に、俺は首を傾げる。
「少なくともお前らアホ兄妹には、多少なりとも魔力や素質を持ってることは、この間の魔獣騒動で分かった」
「ちょっとロキさん、言い方言い方」
「今から行くところで、ついでにお前らが使える魔力の量や、得意属性を調べるんだよ」
「えっ? ちょっと待て……」
俺はそこまで聞いて、衝撃を受ける。
「魔力の量や、得意な属性って……調べられんのか!?」
(この世界に来て、オタク知識で色々と試してはみたが……どれもダメだった)
……だが、しかし! まさかココにきて、調べられる方法があったとは……!!
「まぁ調べるって言っても、ココらじゃそんなに詳しくは調べられねーから、大体の基準くらいだが……」
「何それー! めーっちゃ、面白そー!!」
いつの間にか俺たちの会話を聞いていた妹が、紙袋越しでも分かる程目をキラキラと輝かせながら割り込んでくる。
「ヒナの魔法属性はなんだろー!? てか、どうやって調べるの!? どこで調べるの!? 今から行くの!? どれくらいで分かる!? ロキロキやセージさんは、どんな魔法なの!?」
「だー! うっるさい、アホヒナ!!」
妹からの怒涛の質問攻めに、ロキは耳を塞ぎながら怒鳴り返す。
「即決即断、思い立ったら吉日だよ! 今行こう! すぐ行こう! 『急がばショートカット』だよ!!」
「おわっ!?」
妹が謎の迷言を発しながら、ロキの手を掴んで走り出す。
「正しくは『急がば回れ』です! 何ですか、その意味がわからない言葉は!? 待ちなさい、ヒナ!!」
伊織は走り出した二人の後を、慌てて追いかける。
「ヒナコ様は今日も元気ですね」
「いや、俺的にはもう少し大人しくして欲しいところなんだがなぁ……」
まぁ、でも。妹の気持ちは、多少なりとも分からなくもない。
ココに来て、ファンタジーな異世界の、ファンタジーらしい部分に触れられるのだ。しかも、根っからのオタクである俺たち兄妹の……オタクなら一度は夢見る、憧れの魔法と来た。
オタクとしてこんなビッグイベント、逃す訳にはいかない。
(魔法かぁ……ロキはさっき、俺たち兄妹には魔力や素質があるって言ってたからなぁ……)
自分にはどんな魔法が使えるのかを、少し妄想してみる。
オタク知識や先日聞いた四代公爵家からすると、属性は大まかに分けて『火属性』、『水属性』、『風属性』、『地属性』の四つだろう。
(えー、どうしよう。何がいいかなー? やっぱり、王道は『火属性』だよな。威力も断トツだし、派手さもある。『ドッカーン!』とやった日には、「きたねぇ花火だ」なんて言ってみたいもんだ。……しかし『水属性』も負けず劣らず……水は生命線にもなるし、日常的に使えれば何かと便利だし。それに、水流を操る姿は優雅だ。……そう考えると、『風属性』もいいな。遠距離攻撃には向いてそうだし、練度を上げればもしかしたら気候変動も出来るかもしれない。……待てよ、そうなると『地属性』も捨て難い。地形変動させたりして、相手を妨害することも出来るかもしれない……!)
妄想しだしたら、止まらないのがオタクの性。あれよこれよと考えていたら、どれも甲乙つけがたく……欲が出てきてしまう。
(コレが俺たちオタクの『業』ってやつか……)
「くっ、くくくっ……ふふふっ……」
「ヤ、ヤヒロさん? えっと、すごいお顔ですけど……大丈夫、ですか……?」
ビックリしたセージが、顔を真っ青にして問いかけてくる。
「あ、スマン。気にしないでくれ……」
思わず顔がニヤけて、声が出てしまったみたいだ。
俺は咳払いをして、三人を見失わないように後を追う。
「……あ、そういえば」
その時、俺は大事なことを思い出した。
(この世界に来て、ヒナが初めて魔法を使ったのって……)
キミーの枝を折ったのを、治した時じゃね?
俺は苦虫を噛み潰したような、苦渋に満ちた顔をする。
俺も妹も、完全に忘れてた。
正直、あれは完全にその場のノリとかたまたまだとか……キミーの自己再生の一種だと思っていた。
(……が、さっきのロキの発言から推測すると、アレは明らかに……)
右腕を軽くさすりながら、俺は気づいた。
我が妹である、神崎陽菜子……アイツは少なくとも、『治癒魔法を使えるのではないか?』と、いうことに。