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《アバレー王国 世界樹》
「――ようやく発表したか」
床に引きずるほど真っ赤な長髪を揺らしながら、
猫のような二本の尻尾を左右にパタパタ動かし、女王は小さく呟いた。
「お母様、どうしました?」
その奥で、同じ赤い髪と二本の尻尾を持つ少女が、頬杖をつきながらつまらなさそうに尋ねる。
「姫よ、これを見てみるがいい」
女王は片手で、映像を宙に浮かせて娘へと飛ばした。
「これは……グリード王国の、王が交代……?」
「そうじゃ。次の王は、妾と同じく女王になる。――話が合うといいのう」
「随分と余裕ですね、お母様。まるで“交代することを知っていた”みたい」
「さて、何のことやら?」
女王は楽しげに微笑む。
「しかし、忙しくなりますね。新しい女王との挨拶や、いろいろ」
「そうじゃの。何も知らない女王と、挨拶をせねばならぬ」
「……? それ、どういう意味ですか?」
「お前には、まだ早い話じゃよ。それより――また世界樹から勝手に出て遊びに行ったそうじゃな?」
「うっ……それは……」
「お前はこの国の姫だ。いつ、どこで狙われるかわからん。もっと自覚を持たねばならぬ」
「すみません……」
「それと――妾に、まだ何か隠しておらぬか?」
「そ、そんなことないです! 私はお母様に隠し事なんて!」
「ほう? ……まあ、よい」
女王は艶やかに笑い、尻尾をゆったり揺らした。
「ふぅ……それにしても、次のグリードの王はどんな方なのでしょうね?」
「心配するな――」
女王の口元に、微かな悪意を帯びた笑みが浮かぶ。
「近いうちに、グリード王国は_____」
「滅びるだろう」
____________
《アオイ家》
「……どうしよう、材料が滅びた……」
昼を過ぎた静かな家。
冷魔蔵庫を開けたアオイは、がっくり肩を落とした。
前々から「やばいなー」とは思ってたけど、とうとう在庫ゼロ。
現在、じいさんは昼寝中。ユキちゃんは外で遊び中。
「うーん、買い出し行きたいけど、僕ギルドカード持ってないしな……。
もう、相談するしかないか……」
夜ご飯までにはなんとかしたい。
アオイはじいさんをユサユサと揺さぶり、事情を説明した。
「ふむ、それは困ったことじゃの」
「すいません、もっと早くに相談してれば……」
「いや、わしも任せっきりじゃったからの。何か買ってくるとしよう」
「ありがとうございます! 僕もご一緒しますか?」
「いや、お前はユキを見ておれ。このあたり、魔物がうようよ居るからな。
街へ行くには、少しばかり面倒な道を通らねばならん」
「了解です。お待ちしてます!」
「うむ。では支度してくるかの」
見送る背中を眺めながら、アオイはふと思う。
(……このじいさん、見た目は白髪でシワシワのおじいちゃんって感じだけど、
動きは妙にシャープなんだよな……)
思い出す。
この前、うっかりじいさんの杖をお尻で倒した時、
ありえないくらい重かったっけ。
(……何者なんだ、あのじいさん)
「では、行ってくるかの」
「行ってらっしゃいませ!」
扉を開けて、じいさんが出ていく。
外からは、ユキちゃんの「じぃじー! いってらっしゃーい!」の声が聞こえた。
「さて、と……掃除でもするかな?」
_____
数十分後。
「帰ったなら手を洗ってうがいするんだよー!」
「おかぁさん! お客さんだよー!」
「え?」
じいさんのお客さんかな?
……にしては、タイミングが悪い。
さっき出かけたばっかりなのに。
誰だろう――
そう思って玄関に出たアオイは、息を呑んだ。
「ごきげんよう、三十五番」
そこに立っていたのは、
シルクハットを被った、見覚えのある”マスター”だった。