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蓮司の相談室2

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蓮司の相談室2

35 - 第35話 “いい人”でいることに、疲れた

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2025年11月03日

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放課後の相談室は、静かだった。夕陽が差し込み、机の影が長く伸びている。

蓮司は椅子を後ろ脚で揺らしながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。


そのとき、ドアが小さく開く。


「……入っていい?」


振り向くと、同じクラスの男子が立っていた。

真面目そうな顔。けど、目の奥がやけに疲れてる。


「好きにしろ」


蓮司は足を床に戻し、机の上のノートをどけた。


少年は小さく礼をして、机の向かいに腰を下ろす。


「……なんかもう、疲れたんだよね」


「何が」


「“いい人”でいるの。

周りに合わせて、気を使って、波立たないようにして……。

嫌われたくないから、ずっと笑ってた」


蓮司はペンを指で回しながら、軽く首をかしげた。


「笑うの、もう限界か」


少年は、ため息をつくようにうなずいた。


「誰かに“優しいね”って言われるたび、ちょっとムカつくんだ。

本当は優しくなんかしたくねぇのに」


その言葉に、蓮司は小さく笑った。


「そりゃそうだ。

優しさって、出しすぎると自分を削る。

出した分だけ、後から痛くなる」


少年は少し顔を上げた。


「でも、そうしないとみんな離れてく気がして。

“いい奴”でいないと、俺には価値がないんじゃないかって」


蓮司は視線を外にやる。

赤く染まった空の向こうで、鳥がゆっくり飛んでいた。


「……“いい人”でいなくても、残る奴は残るよ」


少年は眉をひそめた。


「そんな単純なもん?」


「単純じゃねぇよ。

でもな、誰かに好かれるために自分を削るのは、長くはもたねぇ。

本音隠して作った関係なんて、いずれ割れる」


蓮司の声は穏やかだった。

責めるでも、慰めるでもない。

ただ、静かに事実を置いていくような言い方だった。


「……じゃあ、どうすりゃいいんだよ」


「疲れたら、無理に笑わなくていい。

“感じ悪い”って言われても、それが本当のお前ならそれでいい。

それを受け止める奴が、本当の味方だ」


少年はしばらく黙った。

机の木目を指でなぞりながら、かすかに笑う。


「そんな奴、いるのかな」


「さぁな。

でも、“いい人”の仮面つけたままじゃ、見つけてもらえねぇだろ」


夕陽が完全に沈み、相談室が暗くなる。

蛍光灯をつけるでもなく、二人はそのまま黙っていた。

空気の中に、どこか優しい静けさが漂う。


蓮司は窓の外を見たまま、ふっとつぶやいた。


「……“いい人”ってさ、他人にとって都合がいい人って意味でもあるんだよな」


少年は小さく息を飲んだ。

その言葉に、何かがすっとほどけていくようだった。


「もう少し、わがままでもいいのかもな」


「それでいい。

お前がちゃんと生きてるなら、それで十分だ」


少年は立ち上がり、軽く頭を下げた。


「……ありがとう」


蓮司は片手をひらひらと振った。


「礼はいらねぇよ。

“いい人”やめる練習、今から始めろ」


廊下に出る足音が遠ざかっていく。

相談室に残ったのは、少し冷たい風と、

蓮司の静かな吐息だけだった。



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