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そしていよいよ岳大が出発する日がやって来た。今日は井上が新穂高まで岳大を送って行く。

優羽はちょうど山荘の仕事が休みで事務所へ出勤していたので岳大を見送る事が出来る。


井上が荷物を車に積み込んでいる間岳大と優羽はキッチンカウンターの前にいた。


「気をつけて行って来てね」

「うん、ありがとう。大丈夫だよ」


岳大は優羽がかなり心配していたと井上から聞いていたので不安にさせないようにあえて明るく言った。

優羽は頷くとポケットから何かを取り出す。


「はい、これ」


優羽は神社の名前が書かれた小さな袋を岳大に渡した。


「ん?」


そこに書かれた神社の名前は登山をする者なら誰もが知っている有名な神社だ。

岳大は優羽がお守りを買って来てくれたのだとすぐにピンときた。

そして袋からお守りを出してみる。


「あれ? おまけがついてるぞ? 流れ星、作ってくれたの?」

「うん。星が守ってくれますようにって」

「優羽が作ってくれた流れ星なら最強だな。肌身離さず身に着けるよ、ありがとう」


岳大は微笑んでお守りをフリースの内ポケットにしっかりとしまった。


その時井上が来て言った。


「じゃあ時間なんでそろそろ行きますか?」

「うん、そうだな」


井上はすぐに車へ戻ってエンジンをかける。

岳大は優羽をギュッと抱き締め


「じゃあ行って来るよ」

「行ってらっしゃい」


岳大が玄関に向かったので優羽もついていく。

玄関先から見送る優羽に向かって最後に岳大が言った。


「僕が行った後二階の寝室に行ってごらん」

「え? なぜ?」

「行ったらわかるよ。じゃあね!」


岳大は笑顔で右手を挙げると井上が待つ車へ乗り込んだ。

優羽はきょとんとした顔をしていたが車が動き出したので慌てて手を振った。

車が見えなくなるまで見送ると優羽はリビングルームへ戻った。

そしてどの仕事から始めようかと考えていると先ほど岳大に言われた言葉を思い出す。


「寝室? なんだろう?」


優羽は首をかしげて呟きながら二階の寝室へ向かった。


寝室のドアを開けるとベッドには天窓から差し込む太陽の光が燦々と降り注いでいる。

ちょうどその光が当たる位置に何かが置かれていた。

それはリボンの掛かった小さな小箱と封筒に入った手紙のようなものだった。

優羽は不思議そうな顔をしてその手紙を手に取る。

封筒には『優羽へ』と書かれてあった。

それが岳大からの自分への手紙だと気付いた優羽は慌てて手紙を出す。そして読み始めた。


『優羽へ。 今まで山に登る前に手紙を書くなんて事は一度もした事がないんだけれど今回は初めて筆を取りました。登山は大自然への挑戦なので100%安全という保障はありません。ベテランのクライマーでもある日突然帰らぬ人となってしまう事もあります。もちろん僕は無事に帰るつもりでいますがそれでも絶対とは言い切れない。だから手紙を残す事にしました。手紙と一緒に置いてある箱を開けてみて下さい。これは僕からの優羽への愛の証です。北穂高にアタックが決まった時、僕はどうしても君に指輪を贈りたくなりました。誕生石を身に着けると幸せになれると聞いたので君の誕生石のサファイアの指輪を選びました。これは僕と優羽が出会った記念と思って受け取って下さい。そして出来ればこの指輪を君に毎日はめていて欲しい。君がこれを身に着けていてくれると思えばどんな事があっても乗り切れるような気がします。そして僕が無事に帰って来たら君の指にこの指輪が輝いているところ見せて下さい。それを楽しみに僕は必ず帰って来るよ。本当は直接渡せば良かったんだけれど君の事だから「縁起でもない」と怒るかなと思いあえて手紙にしました。

優羽、これだけははっきり伝えておきます。僕は君に出逢えてよかったよ。君と流星に出逢えて僕は本当に幸せです。では行ってきます。 岳大」


優羽は手紙を読み終わる前にもう泣き出していた。


「こんなの……縁起悪いに決まってる…….」


優羽はそう呟くと大声で泣き始めた。泣けて泣けて仕方がなかった。なぜならこの手紙には岳大の愛が溢れていたからだ。

愛しい人を思えば思うほど涙はとめどなく溢れてくる。


優羽は手紙をギュッと抱き締めながらしばらくの間切ない声で泣き続けた。


涙が漸く落ち着くと、優羽はベッドの上にある小箱を手に取る。

そしてリボンを解き箱を開けると中に入っていたベルベッドのリングケースを取り出す。

その蓋を開けてみると中には流れ星のように美しいサファイアの指輪が入っていた。


「綺麗…….」


優羽は信じられないといった表情で呟くと指輪を取り出して左手の薬指にはめてみる。

驚いた事にその指輪は優羽にピタリとはまった。夜空のように深い青色の宝石は優羽の細くて白い指にとても良く似合っていた。


優羽は嬉しくてその指を天窓から差し込む光にかざしてみる。

すると流線形に並んだのダイヤモンドがキラキラと輝き中央のサファイヤも一層輝きを増す。

しばらくその美しさに見とれていた優羽は次の瞬間指輪を胸に抱く。そして目を閉じると一心に岳大の無事を祈り続けた。

水面に落ちた星屑

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コメント

3

ユーザー

このシーンが大好きです🥲岳大さんらしくて岳大さんだから許せるシーンです😊

ユーザー

(*꒦ິ꒳꒦ີ)੭ੇʓʓʓ…岳大さん… どうかどうか無事に帰ってきてください…優羽ちゃんと流星くんと待ってます。

ユーザー

これは〜すぐさま指にはめたサファイアの指輪💍を写メで岳大さんに送らないと❣️❣️ そしたら絶対に大喜び&嬉し泣き😂間違いない‼️ それにしてもこんなに愛のこもった手紙を置いていかれると優羽ちゃんの言う通り"縁起でもない"ってなるけど、やっぱり嬉しいよね🥹🌸 岳大さんも指輪をはめた優羽ちゃんを抱きしめるためになんとしても無事アタック成功させて戻ってこなきゃだね😆🙌💓頑張って〜〜👍

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