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小道は湖を縁取るように続いている。
すぐそばの湖面の光が木々の間からさしこんできて明るく小道を照らし、さらに木漏れ日が降りそそいで、きれいな陰影を描いている。
気持ちいいなぁ…。
彪斗くんとふたりきり、こうしてゆっくりのんびりと歩いている、午前中とはまたちがった充実感を感じて不思議…。
そして、さっきから続いている、小さいけど甘い、胸のドキドキ…。
なんだろうな、この気持ち…。
どうして彪斗くんと、ふたりきりでいる時だけ、こんな気持ちになるんだろう…。
でも、そういう疑問とは別に、さっきから気になることがあった。
お昼を過ぎて、お客さんが増えているのか、さっきからよく人と通り過ぎる。
カップルだったり家族連れだったりするんだけど…女の人が十中八九、彪斗くんを見つめながら、通り過ぎていくの…。
ん…わかるよ…。彪斗くん、カッコいいもんね…。
今日の彪斗くんは伊達メガネに、髪もいつもよりラフにして自然に流している。
すこし形がしっかりしたシャツに、涼しげな色合いのカットソー、パンツ、っていう本当にシンプルな格好なんだけど、スタイルがいいせいか、それとも変装としてのメガネ姿が、いつもと全然ちがう雰囲気をだしてるせいか、つい目が行ってしまう。
って、今もついチラってみたら、
ぱち
目が合っちゃった…!
「なんだよ」
「う、ううん…!な、なんか、彪斗くんのメガネ姿、いつも見ないから新鮮だな、って思って…」
「ふぅん」
メガネの奥で、彪斗くんの目が細まった。
「かっこい?」
じ、自分で言うかな…。
でもその通りだから、こくりって素直にうなづく。
「だってみんな見てるんだもん。女の人がさっきからずっと」
って言い終わるや否や、急に彪斗くんが手を引き寄せて、わたしのあごを、くいっと上に持ち上げた。
「もしかして、妬いてんの?」
「…え」
「じゃ、また今度学校でかけよっかな。おまえを妬かせるために」
わわ…!
自信に溢れた綺麗な顔を間近に見て、ドキドキ胸が高鳴る。
彪斗くんって…いっつも色っぽいくらい綺麗で…それってきっと、目の下のホクロのせいだなって思ってたけど…気づかなかった…。
まつ毛、長いんだな…。
これが宝石みたいにつやつやした黒目を引き立たせていて、プライドが高そうに見せてるんだな…。
わたしは真っ赤になりながら、彪斗くんから目をそらした。
「あ、彪斗くん、歩いてる人、みんなこっち見てるよ…」
「っそ」
わたしの返答がつまらなかったのか、そっけなさそうに言うと、彪斗くんはまた手を握って歩き始めた。
今度は、指と指を絡ませる繋ぎ方で。
普通のつなぎ方より、ぎゅっと力強く感じる…。
えっと…この繋ぎ方なんて言うんだっけ…。
『恋人つなぎ』…だよね…。
なんてドキドキしながら歩いていたら、開けた広場にログハウス風の建物が集まっているのが見えた。
お土産屋さんみたいだ。
窓からのぞくガラス工芸や小物が見えて、興味がそそられる。
「ね、ちょっとあそこのぞいてみようよ」
ドキドキしっぱなしの雰囲気を変えたいのもあってわたしが提案すると、彪斗くんは快く了承してくれた。
どうやらこの近くにガラス工芸や小物を創るアーティストさんがいるようで、商品として作品が売られていた。
湖の近くにあったお店でも同じような物が売っていたけど、こういうのって楽しいからついつい見てしまう。
硝子でできたアクセサリーに惹かれて、手に取ってみた。
「え、それがいいの?」
「ん…うん」
「おまえはこっちの方が似合うよ」
「そっかなぁ…?」
「おまえはセンスないんだよ」
「えー…綺麗だと思うんだけど」
「だめだ。俺がいいって言うんだから、こっちだよ」
もう、ホント俺様なんだからっ。
ぷぅと頬をふくらます。
けど、不意に手が伸びてきて、イアリングを耳にあてられた。
「うん、やっぱ可愛い」
おだやかに細まった目に、どき、と胸が高鳴る。
そんなうれしそうな顔、しなくてたって…。
「買ってやるよ」
「え、いいよ…!けっこうな値段なのに」
「え、そう?」
…そう、でした。彪斗くんはすごくVIPな芸能人なんだった。
さっさと買ってきてしまった彪斗くんに、わたしはお礼を言った。
「ありがとう…」
「どういたしまして。今度デートする時は、これつけて来いよ」
「……ん…」
にっこり笑う彪斗くんに、目が合わせられない…。
お客が多いせいかな…。
それとも、胸がずっとドキドキしているせい…?
すっごく、熱い。
「も、お店でよっか」
「ああ」
と外に出たけど、
すかさず照りつけてきた強い陽ざしに、ちょっと眩暈を覚える。
暑かったのは、やっぱり気温のせいだったのかな…。
「だいじょうぶか?優羽。ちょっと休んでろ。なんか冷たいものでも買ってくるか?」
「ん…」
「じゃ、ちょっと座って待ってろ」
と、売店へ歩いていく彪斗くん。
言いつけどおり座ろうとしたけど、あたりは人で一杯だった。
しばらく探し回っても見つからないので、仕方なく、わたしは建物の陰に入って、ひんやりするつるつるの丸太の壁に背を預けた。
するとソフトクリームを持った大学生風のお姉さんたちが、しゃべりながら歩いてきた。
「ね、さっき売店にいたメガネの男の子、すーっごくかっこよくなかった?」
「わかる!黒髪のコでしょ!なんだろ、雰囲気が、ちょっとちがうよね!」
彪斗くんのこと、かな…。