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モンスターとの死闘を終えた翌日、洞窟の壁に身を預け、レイはひたすら天井を見上げていた。 息苦しいほどの暗闇。どこかひんやりとした空気の中、遠くから雫の落ちる音だけが響いてくる。
「……はぁ、腹減ったな」
(それでも、こうして息をしていられるだけ良いだろう?)
「まあ、な。昨日は自分でもよくやったって思うけど……あのまま死んでてもおかしくなかったし」
(人間は時に、怖さや空腹や、孤独と向き合う時間が必要なのだ)
「……それ、なんか経験者みたいに言うな。シルフ、お前も昔は人間だったんだろ?」
(そうだな。かつては私も、肉体を持ち、若き魔術師として冒険していた……といっても、もう何百年も前の話だが)
「そっか……それにしても、今の俺ってどう見える? 少しは成長したと思うか?」
(ふむ。昨日の戦いは見事だった。だが大切なのは、その結果をどう受け止めて次に生かすか、だ)
「考えてみると、あんなに必死になって、怖くて逃げたいって思ったのは久しぶりだったかもな。パーティにいた頃は、怖いとか思う余裕すらなかった……。自分が役立たずって思われるのが、一番怖かったから……」
(……人は、誰しも恐れを抱くものだ。だが、恐れを乗り越える度に、新しい自分になれる)
「うーん、新しい自分か……今は、まだピンと来ないな。けど、もっと強くなって昔の仲間を見返したいって気持ちは、今でもある」
(見返すためだけに強くなりたいと思う気持ちは、否定しない。それで立ち上がれるのなら、それも立派な理由だ)
レイは洞窟の奥の方を見つめて、ふっと息をついた。
「なんか、たまに思うんだよ。もしあの時、みんなから追い出されてなかったら、俺はこんなふうに何かを変えようとか思わなかったかもしれないって」
(過去は戻らない。だが、“きっかけ”には意味があるものだ)
「だといいけど……。あー、ほんと、飯が恋しい。焼き肉とか、揚げたてのコロッケ……ああ、腹減った!」
(ふふ、食欲も含めて、お前は生きている。だからこそ、次の一歩も歩めるのさ)
「なあシルフ。お前、何百年もこんな風に洞窟にいたのか? 寂しくなったりしなかったの?」
(人は死ねば孤独とも無縁だと思うかもしれない。だが、時折“忘れられる”ことこそが一番の孤独といえるかもしれない)
「……だから俺に話しかけてきたのか」
(君が珍しい魔法を持ち、ここに倒れていたからな。正直、面白そうだと思ったのもある)
「面白そう、か。なんか、悪くないな……こうやって誰かと話せてるのも奇跡みたいなもんだし」
(縁とは、そうやって生まれるものだ。思い悩み、傷付き、時に迷いながらも……誰かと出会って、少しずつ前に進める)
「うん……。ありがとう、シルフ。こんなとこでお前に会えて、俺はラッキーだったのかもな」
(礼はいらんよ、レイ。私はまだまだ、お前に教えたいことが沢山あるからな)
「へぇ、なんだよ、急に親みたいなこと言って」
(二人とも不器用だから、ゆっくり進もうじゃないか)
再び静寂が訪れる。
だが、どこかその空気は昨日までとは違って温かい。
レイは目を閉じて、微かに笑った。