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「な、ぜ……。なぜ、お前がここに……ッ!」
血塗れのアレンが、信じられないものを見るような目で僕を仰ぎ見る。
「なぜって、デッドQに聞いたんだよ。ここの研究所なら、彼よりはマシな情報があるかなって。……でも、この状況は何? パーティーにしては少し物々しすぎない?」
「レ、レイ君……!」
カケルが震える声で縋りついてくる。「覚醒者たちが……シオリさんを奪還するために、襲撃してきたんだよ……。ボクたち、もう……」
「シオリ? 誰それ、新しい友達?」
僕の問いに、アレンが苦々しく吐き捨てた。
「お前と同じ『覚醒者』の女だ。俺たちナンバーズが捕獲した重要個体だ」
アレンが苦々しく吐き捨てる。その言葉を聞いた瞬間、僕はぱぁっと顔を輝かせた。
「えっ、本当!? シオリって子、僕と同じ覚醒者なの? やったね!」
僕は満面の笑みで、ナンバーズを殺そうと武器を構える五十人を見渡した。
「じゃあ、ここにいる大勢の人たち も僕と同じ『力』が使えるの? だったら嬉しいな」
「……いや。お前と違い、あいつらはギフト(特殊能力)を持たない覚醒者だ。数だけで押し潰すことしかできない、ただの兵隊だよ」
「……でも、情報は持ってるかも!」
一縷の望みをかけてそう言ってみたけど、アレンは鼻で笑った。
「奴らを見ろ。あいつらが、俺たちの求めてるような情報を持ってるように見えるか?」
改めて五十人の『覚醒者』たちを見る。……うーん、たしかに。みんな血走った目で武器を振り回してるだけで、見るからに頭が悪そう。
「じゃあいいや。僕には関係ないし、シオリさんに会いに行こ。ねぇ、どこにいるの?」
僕が歩き出そうとすると、アレンが今まで見たこともないくらい渋い顔をした。苦虫を百匹くらい噛み潰したような、屈辱に満ちた顔。
「……なぁ。本当は嫌だが、背に腹は代えられん。今のこの状況は、俺一人じゃどうしようもねぇ」
アレンはイヤイヤ期の子どもみたいに顔を歪めながら、絞り出すように言った。
「取引だ、レイ。……シオリよりも情報を知ってそうな覚醒者が一人いる。そいつはトオルと言って、今、本体の俺と戦ってる最中だ」
「……本体?」
僕は思わず足を止めて、目の前で血を流しているNo.1を指さした。
「本体、ここにいるじゃん。何言ってるの?」
「あー! クソッ、説明が面倒だ! 俺は今『分身』してるんだよ! もう一人の俺が、別の場所でトオルを食い止めてるんだ!」
アレンの言葉に、視界の隅で演算ノイズが激しく走った。……分身? 物理的に個体を複製してるってこと?僕はまじまじとアレンを見つめ、本気で一歩引いた。
「……No.1さ。君、本当に人間? ちょっと気持ち悪いんだけど」
アレンの怒号をBGMに、僕はため息をついてこめかみを指で叩く。ま、いいや。トオルって人を叩けば、デッドQよりマシな情報が手に入るってことだよね。
「わかったよ。じゃあ……まずは目の前の『ゴミ』を片付けちゃおうか。ナンバーズの皆さんそこ、邪魔だからどいてて」
「まぁ、デッドQほど強くはないでしょ。能力もないらしいし」
僕は、目の前に壁のように立ちふさがる五十人の覚醒者たちを、まるで動かない標的を見るような目で見つめた。
「No.1。こいつらをある程度片付けたら、そのトオルって人のところに連れてってね」
「……ああ。約束は守る……」
アレンの苦々しい返事を聞き届け、僕は思考の海に深く沈む。
覚醒者の急所は『脳』だ。
「……よし。効率よく行こうか」
僕は一歩も動かない。ただ、こめかみを指で叩いただけだ。視界に、無数の『黒い影』が展開される。一つは、コンマ数秒後の座標を示す『未来の影』。もう一つは、今しがた通過した座標の残滓である『過去の影』。
「同期。」
刹那、僕の体が掻き消えた。最前列にいた覚醒者の真後ろ。あらかじめ配置していた『未来の影』と自分の座標を重ね合わせる。
「……一人目。」
脳幹を指先で弾き、破壊。崩れ落ちる死体を確認する暇もなく、僕はすかさず別の敵の足元に広げていた『過去の影』へ意識を飛ばす。
同期。」瞬間移動――いや、空間の置換。次の瞬間、僕は覚醒者の『体内』に出現していた。内側から物理的に弾け飛ぶ肉体。突き破った僕の手は、正確にその脳を握りつぶしている。
「二人目。三人目……。四、五……」
跳ねる、消える、出現する。戦場に響くのは、肉が弾ける音と、僕の退屈そうなカウントだけだ。
物理法則を無視した超高速の往復運動。気づけば、五十人いたはずの『兵隊』は、その半分以上が物言わぬ肉塊に変わり果てていた。
「ふぅ……。やっぱり一度にこれだけ同期(リンク)させると、結構疲れるね」
返り血を拭うことすらなく、僕はその場にすとんと降り立つ。背後で、アレンが言葉を失って立ち尽くしていた。
「……無制限であれだけの力を……。本当に貴様は化け物だな」
僕がふぅと息をつくと同時に、生き残っていた二十人ほどの覚醒者たちが、一斉に後退りした。
さっきまでの殺気は消え失せ、目にあるのは「理解不能な怪物」への根源的な恐怖だけだ。
「……よし。あとは二人でなんとかなるでしょ。約束通り、案内よろしくね」
僕がアレンに声をかけると、彼は呆然としていた意識を無理やり引き戻し、仲間に鋭く指示を飛ばした。
「No.4、No.5! No.2を守りながら応戦しろ!」
「了解! ……へへ、こんだけ戦意喪失した連中相手なら、俺たちだけで余裕だぜ!」
二人のナンバーズが武器を構え直す。アレンは血を拭い、僕の隣に並んだ。その横顔には、まだ僕への警戒と、それ以上の期待が混ざっている。
「……行くぞ、レイ。着いてこい。……一つ聞いておく。トオルの能力は『未来予知』だ。後出しジャンケンをされるようなもんだが、お前ならどう倒す?」
アレンの問いに、僕は歩きながら少しだけ考えた。未来を予知される……。視覚情報や演算結果を先に読み取られるなら、アプローチを変えるしかない。
「うーん……。そうだね。予知されないように、相手の『脳』を直接ハッキングしちゃえばいいかな」
「……は?」
アレンの足が、ピタリと止まった。信じられないものを見るような目で、僕の横顔を凝視している。
「デッドQ戦で覚えたんだ」
僕は人差し指をこめかみに当てて、淡々と言い放った。
「予知される前に……相手の脳に、直接『打撃』を与える」
「…………マジかよ」
アレンが絶句し、引きつった笑いを漏らす。その反応を背に、僕はトオルがいるはずの戦場の中心へと視線を向けた。