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水面に落ちた星屑

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水面に落ちた星屑

第89話 - 第89話

143

2024年08月30日

#恋愛

#大人の恋愛

#大人ロマンス

#第3回テノコン

#ハッピーエンド

#純愛

瑠璃マリコ

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瑠璃マリコ

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その頃、優羽はいつものように山荘の仕事に専念していた。

二月も下旬になると登山客は一気に減少しこの山荘を訪れる客のほとんどは雪見露天風呂目当ての旅行者だった。

部屋が満室になる日はあまりなかったので山荘はのんびりした雰囲気に包まれていた。

玄関前の雪かきを終えた優羽はフロント業務の事務作業をしていた。そこへ紗子が来て優羽に言った。

「佐伯さんから聞いたんだけれど来月の優羽ちゃんのお休みに佐伯さんの叔父様がいらっしゃる八ヶ岳に行くんですって？」

「はい。先日佐伯さんがうちの実家へ挨拶に来てくれたので今度は私がご挨拶に」

「流ちゃんも連れて行くの？」

「あ、いえ、その日ちょうど保育園でのお泊り保育があるのでその日にしたんです。何かあれば母や兄が対応してくれると言ってくれたので」

「あら、それは良かったわね。二人とも忙しくてデートも出来ないんだから思い切り楽しんでいらっしゃい」

「ありがとうございます」

優羽は嬉しそうに微笑んだ。

それから二人は春に向けて土産物コーナーのレイアウト変更についてを話し合った。

紗子は優羽が選んで仕入れた商品はどれも売り上げがいいので土産物コーナーは全面的に優羽に任せると言った。優羽は任された事が嬉しくて張り切ってあれこれとカタログを眺める。

こういう仕事は優羽の大好きな分野だ。

そこで優羽はしみじみと思った。子持ちで住む場所を提供してくれ副業も認めてくれるこの環境が本当に有難かった。

雇ってくれたオーナーの山岸夫妻には感謝してもしきれない。

せめてもの恩返しに山荘での仕事はきっちりと責任を持ってこなしていこう……そう思った。

その日の午前の仕事を終え優羽が昼の休憩を取っていると岳大からメッセージが届いた。

カフェの隅のテーブルでコーヒーを飲んでいた優羽はすぐにメッセージを開いてみる。

【お疲れ様、そろそろ休憩かな？　さっきテレビニッポンの保坂さんから電話があってもう一本テレビの仕事が入りました。番組は『グレートクライマーR』で大和翔真君のサポートで北穂高に登ります。翔真君のテレビ初登山デビュー番組だね。3月下旬の日程なので僕はすぐにそちらに集中しなくちゃだけれどその間店の方は井上君と二人でよろしくお願いします」

優羽はびっくりしていた。

『グレートクライマーR』は兄の裕樹が必ず録画していた番組で優羽も兄の影響でよく見ていた。

有名登山家や登山の経験がある著名人が厳しい山に挑戦する。それにテレビスタッフが同行する臨場感溢れるドキュメンタリー番組だ。

この番組は登山をする者にとっては神番組として知られている。

そんなすごい番組に岳大は出演するというのだ。それも有名俳優の大和翔真と一緒にだ。

この時優羽はさらに岳大の凄さを実感していた。

感動に浸っていた優羽はハッとすると慌てて返信する。

【佐伯さん凄いです。あの番組はうちの兄も私も大ファンです。それに出演、それも大和さんと一緒だなんて更に凄いです。店の方は私達に任せてしっかりそちらに専念して下さいね】

【ありがとう。僕も久々の山だからすごく楽しみだよ。また詳細は事務所で！】

優羽は岳大とのメッセージを終えると今度は兄の裕樹にメッセージを送った。

裕樹はこの話を聞いたら喜ぶだろう。

すると勤務時間中にも関わらず裕樹からすぐに返事が来た。

【マジかよー、佐伯さん凄いな！　俺あの番組はテレビ番組の中で一番好きなんだ。くっそー楽しみ過ぎる(笑)】

裕樹のメッセージを見て優羽はフフっと笑う。

【放映時間とかわかったら連絡するね】

【おお、頼むぞ！　それにしても3月の下旬の北穂高だったらまだ真冬の気候だから結構大変そうだな。事故がない事を祈るよ。まあ佐伯さんみたいなベテランなら心配ないだろうけどな。じゃ、仕事に戻るよ】

（真冬の気候？　そっか、麓は春でも山はまだ雪がいっぱいあるんだ。って事は本当に冬山なんだ…大丈夫なのかな？）

優羽は少し不安になる。

その時フロントのテレビからはタイミングよく山に関するニュースが流れ始めた。

「二日前から行方不明になっていた槍ヶ岳登山中の男性二人組が本日心肺停止の状態で発見されました。昨日までは悪天候でヘリでの捜索が出来ず本日天候が回復したと同時に長野県警と山岳救助隊が捜索を開始したところ残念ながら雪の中に倒れている二人を発見…….」

優羽はニュースを心配そうにじっと見つめる。優羽の心にはなんとも言えない不安が広がった。

（ううん、佐伯さんは海外の凄い山にも登るようなベテランだもの、きっと大丈夫よ）

優羽そう自分に言い聞かせると気持ちを切り替え午後の仕事へ戻っていった。