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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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夜の帳に包まれる羅城門は、不気味さを増していた。


そこかしこに、古びたむしろにくるまり、横たわる人影が見える。


どこからともなく、奇っ怪な叫びが流れてくる。


すえたような、思わず鼻をつまみたくなる異臭が漂っている──。


「……夜は、これ程のものであったとは……」


あまりのこと、なのだろう。頼近からは、すっかり勢いが消え口数も少なくなっていた。


「頼近よ、鬼が琵琶を吊るすのだろう?人ではないモノが、現れるのだ。これくらいすさんでいるのも不思議ではないだろう?」


「いや、まあ、そうだが、鬼は、単なる例えと……ん?」


宗孝!と、頼近が、声を上げ前方を凝視している。


琵琶だ。


噂通り、門の楼閣から、琵琶が、吊るされていた。


「……そんな、ばかな」


信じられないと、頼近は、固まっている。


「頼近、お主は、信じていたのだろう?それを、今さら、驚いて。ああ、噂は、誠であったか。と、なると、これは、もう噂ではないな」


「宗孝よ!何を呑気な事を言っておる!あの、琵琶は!」


ざくっと、地面を踏みしめる音がした。何者かが、駆け出そうとしている。


──宗孝様、ホタルがおりますわ──


宗孝の耳元で、囁き声がする。


(余理か。主も、気になったか)


ふっと、笑みを浮かべた宗孝は、すぐに緩んだ頬を引き締める。


こんな時に、喜んでいる場合かと、小言の一つも頼近に言われてしまうと思った矢先、うわっと、何者か、男の叫び声がした。


ざっざっと、地面へ転がりこむ様な音がして、その声の主は、ひいぃと、慌てふためいていた。


「宗孝!早う!」


頼近は、逃がしてはならぬとばかりに、声がする方へ駆け出した。


ホタルが、その者に悪さしているのだろうと、分かっていた宗孝は、付き合い程度と、頼近の後を追う。


「ひぁーー!あぁ!!あ、足が、足がっ!」


悲鳴とも泣き声ともつかぬ、男のものが、響いていた。


「どうした」


追い付いた宗孝の問いに、頼近は、戸惑いながら、地面で転げ回る男の姿を指差した。


「あれが、鬼……の正体なのだろうか……」


「そうだなぁ」


男の足元から、小さな光が、飛び立つのを、宗孝は見逃さなかった。


きっと、ホタルが、男を逃さぬように、足元へ巻きついたのだろう。


「そこの鬼、なんぞ、言ってみよ!」


宗孝が、男に圧をかける。


「お許しを!」


男は、うわずった声で懇願してきた。


すると──。


「うわあーー!琵琶だっ!!」


門で何者かが、騒いでいる。


多少、呂律が回っていない様子から、かなりの酒を飲んでいるのだろう。


酔いの為に、道を迷うて、ここへ来てしまったか、叉は、門を潜って帰らなければならない、片田舎に住む者なのか。


どちらにしても、その者は、噂を知っている様で、鬼じゃ、と、居るわけもないものを怖がり、ほうほうのていで、この場から逃げ出した。


「男、あのように、人を恐れさせ、惑わして。事と次第では、ただではすまさぬぞ」


落ち着きを取り戻した頼近が、頭中将らしく、威厳を見せる。


「どうか、ご勘弁を!」


男も、頼近の態度や口振りから、それなりの位の者と理解したようで、物腰は一気に低くなった。


「……あの日、忘れたのです」


観念した男は、地面から起き上がると、そのまま、居ずまいを正し、頭を下げて、訳を語り始めだした。


宗孝と頼近は、耳を傾けているのだが、唐突な語りに、宗孝も頼近も、何が言いたいのか、話が掴めないでいた。


「物を忘れたというのか?それで、何故、琵琶が、門から吊るさなければならぬのだ?」


宗孝が、不思議そうに頼近を見る。


「宗孝、それは、あの、琵琶のせいなのだよ。そなた、雅楽寮の楽人がくとだな?」


言う頼近に、男は頷き、ぽつぽつと、話を続けた。

平安あやかし探聞

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