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そうして短い時間で劇的に文明レベルのあがった国民は、たとえ無駄に派手な魔術で彼らが外で大暴れしてその余波で畑や牧畜まで被害があっても、自分たちの働きから相当な搾取があっても、欲望のまま国民から見た目の良い若い男女を連れ去り肉欲にまみれた宴が行われていても──英雄のおかげだと、英雄に見初められて光栄だとそういう国なのだと、理解し受け入れていた。
しかしその裏で、自分たちの脅威となるもの──つまりは新しく訪れるニホン人の可能性に危惧した何人かによって召喚儀式についてを知るものも実行できるものも合わせて、その殆どが問答無用で処分された事を国民は誰も知らない。
そうすると、新しく英雄の召喚というものはほぼ望めなくなり、あとの時代においては自分たちで対処する事になる。
当時の生産職と呼ばれたニホン人たちの作った武器は王国軍に配備され、魔獣を駆逐するのにその威力を発揮するが、時代を重ねていくほどに消耗品である武器兵器は補充がきかなくなり、王国軍人の死傷に伴い徐々に数を減らしても行く。
初代たちの発案で広げられた農地は、魔獣が生きていくために求める栄養を補うのに適しており、必然と魔獣被害は増えていく。それは国土の外より内へと向かう包囲網のようだった。あとは、いつ王国内部へ侵攻を許す事になるのか、それだけだ。
危機の包囲網が狭まるごとに国民たちは怯えていく事になる。対処しきれなくなる将来に不安を覚える。
ヒト種族の王国の中心に近いところで住む、英雄たちにより愛玩種と呼ばれた一部の獣人たちはなおその危機感が強かった。
転移ニホン人たちがケモ耳だとかモフモフだとか言って特に可愛がり、子孫の代のいまも自分たちの手元に置いておき好きな時に好きな事をするために保護している。そのため割といい生活は出来ているのだが。
なお、ここには女子しか住んでいない。男子は生まれれば外の一般区域で生活する。男子は必要ないとされた。女子は外からも連れて来られることがある。それでなくともここでも産まれる。ここの女子が主に“奉仕”という仕事をしているからだ。
そんな奉仕という仕事の最中に、相手のニホン人が召喚の話を、儀式を知るものはみんな死んだなど、乱れた寝具の中で話したりしたものだ。
ここの愛玩種の中でも、成長しても140cmほどの小柄で大きな長い耳が特徴のラビ種を特に愛する者がそれなりにいる。
かつて初代の話す召喚儀式に興味を持ったラビ種の1人がそういった情報を、何人ものニホン人から幾度となく呼ばれる度、舐められ突き上げられしてるときに聞き出して、その内容は囲われている愛玩種の中で共有して後世にひっそりと引き継がれていた。
魔獣の包囲網を脅威と捉えて久しいある日、ラビ種の1人が神域を見てみたいと贔屓の貴族男子にねだった。儀式を無きものにした時に当然として神域は立ち入り禁止とされている。理由は神聖なものなのでニホン人達で管理するとかなんとか。
貴族男子も最初こそ渋りはしたが、お気に入りの子の可愛いおねだりと、この男子の時代にはよく知らされていない理由で何となく立ち入り禁止の神域とでは天秤にかけるまでもなかった。受け継いだものだけで気楽に我儘に生きているこの国の貴族など基本的に頭空っぽなのだ。
ラビ種の少女は神域にたどり着くと、少し1人にして欲しいと告げて人払いに成功した。
そこで少女は懐から虹色の石を取り出した。愛玩種の皆で願い、魔力を込めた彩虹輝石と呼ばれるものである。それを握りしめて跪き少女は祈る。
そこで起きた出来事は、結局何かが召喚されることもなく誰も何も気づかない。
それがどんな結果に変わるかも少女にすら分からないが、輝石は色を失い透明になっていた。