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第七章 交わる運命
第五話 満月前夜③
「……これが、月蝕の子……」
その瞬間、教会側の男がはっと顔色を変えた。
銀髪。
氷の魔力。
そして隣に立つ、赤髪の青年。
「……皇子側の人間か」
低い舌打ち。
空気が張り詰める。
男は即座に仲間達を振り返った。
「撤退するぞ!」
「ですが……」
「今はまずい!」
鋭い声だった。
この場で皇子側と衝突すれば、教会内部の動きまで表へ出る。
何より、今の月蝕の子は、完全に制御できていない。
男達は後退を始める。
けれど
「……逃げるな」
低い声が響いた。
ぞわり、と部屋中の影が揺れる。
教会の男達が凍りついた。
ジオがゆっくり顔を上げる。
黒い瞳の奥で、闇が渦巻いていた。
「サフィを、傷付けた……」
怒り。
悲しみ。
恐怖。
流れ込む感情すべてが、瘴気と混ざり合って暴れている。
「許さない……!」
次の瞬間。
黒い影が、一斉に男達へ襲いかかった。
「ひっ!!」
床を裂くように伸びる闇。
教会側が咄嗟に魔道具を構える。
けれど、間に合わない。
その時
――バキィッ!!
鋭い氷柱が、影の軌道へ叩き込まれた。
冷気が爆ぜる。
影の一部が氷に閉じ込められる。
ジオが苦しそうに顔を歪めた。
「……邪魔、するな」
クロードは静かにジオを見据える。
銀色の瞳が、揺れる黒い瘴気を映していた。
月蝕記に記された存在。
闇を引き寄せる者。
世界の循環に関わる者。
けれど、世間では恐れられてきた存在でもある。
その力は、人々から見れば災厄にも等しいものだった。
だが目の前の青年は、ただ怒りに任せて暴れているだけではなかった。
苦しんでいる。
何かと戦っている。
そんなふうに見えた。
「……落ち着け」
低い声。
けれどその瞬間、別方向から再び影が跳ね上がる。
「うわっ、ちょ、ちょい待っ――!!」
ラスタが慌てて結界石を起動する。
すると、ラスタを包むように淡い光の膜が広がる。
影がぶつかり、激しく火花を散らした。
「っ!なんやこれ反則やろっ!!」
ラスタが叫ぶ。
「クロ!!これ長く持たへん!!」
「分かっている」
クロードは短く返す。
けれど視線は、ずっとジオから離れない。
目の前の青年は、確かに危険だった。
空気そのものが歪んでいる。
瘴気が濃すぎる。
近付くだけで身体が重くなる。
それなのに、
「……ぁ……」
彼自身も苦しそうだった。
怒りの中に、明らかな痛みがある。
壊したいわけじゃない。
飲まれまいとしている。
そんなふうに見えた。
その隙に、教会側が一気に廊下へ退く。
「今だ!」
「急げ!!」
倒れた仲間を引きずるようにして連れ出す。
足音が遠ざかっていく。
黒い影が追おうと伸びる。
けれど、
「……っ」
ジオの身体が、ぐらりと揺れた。
限界だった。
瘴気が乱れる。
暴れていた影が、少しずつ輪郭を失っていく。
黒い闇が、霧のように崩れ始めた。
「……サ、フィ……」
掠れた声で呼ぶ。
そしてジオは、ふらつきながら部屋の奥へ駆け出した。
「サフィ……っ!」
壁際へ座り込む。
血の滲む床。
崩れた家具。
その中で倒れる、青髪の青年。
「……っ、サフィ!」
ジオが震える手で、その身体を抱き起こす。
「やだ……」
声が震える。
「サフィ……起きて……」
黒い瞳が、必死に揺れていた。
さっきまでの恐ろしさは、もうどこにもない。
ただ、大切な存在が傷付いたことに怯える青年がいるだけだった。
その様子を、クロードは静かに見つめていた。
隣でラスタも、呆然とその光景を見ていた。
そして、小さく呟く。
「……なんや」
「普通に、泣きそうな顔するやん……」
コメント
1件
いや~今回もやばかったわ! ジオの暴走シーン、瘴気と感情が混ざり合ってる感じがちゃんと伝わってきて鳥肌立った。特にクロードが「苦しんでいる」って気づくところ、ホントにこの作者さんキャラの解像度高いんだよな…。で、最後の「普通に、泣きそうな顔するやん…」で一気に切なくなった。サフィ無事でいてくれ頼む😭