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「結局、お前ってさ、何も言わないよな」
笑いながら、誰かが言った。
「何考えてんのか、全然わかんねえ」
「都合悪くなると黙るんだろ」
教室に漂う空気は、笑っているようで、どこか冷たい。
彼らの声がひとつひとつ、遠くから響いてくるようだった。
窓の外では風が吹いている。
でも、その風の音すら、今の遥には遠い。
──何を言えばいいんだろう。
言葉を探すたび、喉の奥が乾く。
声にしようとすると、心の奥から何かが止める。
「どうせ、また笑われる」
その予感だけで、唇が動かなくなる。
彼らが求めているのは“答え”じゃない。
“反応”だ。
彼らの思う通りに動く反応を返さなければ、
それはすぐに“反抗”として処理される。
──だから、黙るしかなかった。
沈黙は、彼にとって逃げではなく、唯一の盾だった。
けれど彼らにとっては、それが「罪」になる。
「なあ、なんで何も言わねえの? ムカつくんだよ」
机を叩く音。
誰かの笑い声。
誰かがそれに便乗する。
「ほら、まただよ。黙ってんの。気取ってんの?」
声が、皮膚の上を滑っていく。
痛みとは違う、でも確かに傷をつけていくような音。
──本当は、言いたいことなんて、山ほどある。
言いたくないんじゃない。
言っても、届かないだけだ。
届かない言葉は、やがて声になることをやめる。
声にならない思いは、やがて自分の中で静かに腐っていく。
“黙っている”と責められるたび、
彼は自分の沈黙がどんなふうに見えているのかを考える。
臆病、冷たい、無関心──そう言われることも知っている。
でも、違うんだ。
言葉は武器になる。
けれど、間違って使えば、誰かを守るために握ったその武器で、
自分を刺してしまう。
だから、怖い。
だから、沈黙する。
それが“ずるい”と言われても、
彼にとっては、生き延びるための呼吸のようなものだった。
──言葉を奪われた人間に、どうして「話せ」と言えるのだろう。