贈ったものを喜んでもらえる事って、こんなに嬉しいんだ、と、奈美は豪に出会って初めて知った。
豪以外の男の人は、一人しか知らない彼女。
元彼との付き合いは、実は豪に出会うための予行練習だったのではないか、と感じるほど。
豪といると、初めての経験がたくさんあった。
初めて抱く気持ちもたくさんあった。
彼と結ばれた時、セックスが心も身体も満たされる行為だという事も初めて知り、一人で過ごす時、自分で慰める事もしていない事に気付く。
それほど奈美にとって、豪の存在は大きいのだ。
「そうだな。今度、このネクタイに合うワイシャツを探しに行くかな。奈美も行くだろ?」
「うん、行きたい!」
豪が奈美を抱き寄せて、額と頬に唇を落とす。
「せっかくなら、奈美にワイシャツを選んでもらうか」
「え? 私が選ぶの!?」
突如言われた提案に、目を丸くしつつ狼狽える。
「奈美が贈ってくれたネクタイに、奈美が選んでくれたワイシャツを合わせる。俺にとって、こんな贅沢な事はないな……」
豪は本当に、女性が喜ぶ事や言葉をよく知っている、と彼女はつくづく思う。
照れもせずに、こっちが恥ずかしくなるような事を、平然と言ってのけるのだ。
「前にさ、俺が贈った物で奈美を埋め尽くしたいって言っただろ? 同じように、俺も奈美が贈ってくれた物や選んでくれた物で、埋め尽くされたいんだよ」
「どうして?」
「そうすれば、奈美の事をずっと感じていられるだろ?」
時々、彼の言葉が本気なのか冗談なのか、分からなくなる時があるけど、本気なのだろう。
「俺はいつも奈美を感じていたい。会えない時でも、奈美を感じていたいんだ」
豪はソファーから立ち上がると、寝室へ向かっていった。
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