テラーノベル
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夏になるたびに思い出す。
まだ二人が幼稚園児だったあの日のことを。
「ゔゔ……」
太陽が照り付ける暑い陽の下で、明里はスコップで砂場をざくざくと一人で掘っていた。
泣きながら。涙を流しながら。
「ねえ、お姉ちゃん? どうして泣いてるの?」
最初は『何か嫌なことでもあったのかな?』とか『誰かにイジメられちゃったのかな?』と思って、声をかけずにはいられなった。
今思うと、この時僕が明里に話しかけることなくそのまま家に帰っていたら、『今』というこの時間はなかったのかもしれない。
「……誰も私と遊んでくれないから」
「なんで一緒に遊んでもらえないの? イジメられてるの?」
明里は力なく首を横に張った。
「ううん。違う。私、性格暗いから」
幼いながら、僕はどうしようかなと考えた。いつも男子とばかり遊んでいた僕にとって、女子に対してどうやって接すればいいのか全くと言って良い程分からなかったから。
「暗いって、どうして?」
「知らない。でも、いつも幼稚園で皆んなにそう言われてるから」
「え? 幼稚園? お姉ちゃんじゃないの?」
この時、明里は僕なんかよりもずっと背が高かった。だから勝手に年上だと思い込んでいたのだ。
「幼稚園だよ? 五歳なの」
「そうなんだ! 僕も同じ! いろはに幼稚園って所に行ってるんだ!」
僕のそれを聞いた時の明里の顔は忘れない。今まで真っ暗な闇の中いたのに、小さな小さな豆電球に照らされたように、明里はパァッと明るい笑顔を僕に向けてくれた。
「私も! 私も同じ幼稚園なの!」
明里を見て初めて知った。暗闇の中にいると、小さな豆電球の光でさえ、目が潰れん程に眩しく光輝くことを。
「そうなんだ! じゃあ同い年なんだね。ねえ、名前教えてよ! 僕は大輔っていうんだ」
「大輔くんっていうんだ。私は明里。天堂明里っていうの!」
「そうなんだ、明里ちゃんっていうんだ。ねえ、良かったら僕の家で一緒に遊ばない? テレビゲームしようよ、テレビゲーム」
「テレビゲーム! 私、やったことないからやってみたい! でもいいの? 私なんかと遊んでくれるの?」
あの時の明里、めちゃくちゃ不安そうな顔をしてたなあ。
だからかな。余計に『この子と仲良くなりたい』って思ったのは。
「あ、その前に。ちょっとごめんね。水道で水飲んでくる」
「わ、私も行く!」
暑さのせいで喉がからからに乾いてたので、まずは水分補給をと思ったんだけど――。
「ひゃああーー!!」
あまりの嬉しさに興奮してたのか、明里は水飲み栓を思いっ切り捻ってしまった。結果、明里はびしょびしょに。そして再度泣き始めてしまった。
「ど、どうしよう……ぐすっ……このままじゃママに怒られちゃうよぅ……」
「大丈夫だよ、すぐに乾くからさ。それか、僕の家で乾燥機使って乾かしちゃう?」
「い、いいの!? 大輔くんのお家の使っちゃって」
「もちろんいいよ」
「ありがとう! じゃあそうする!」
* * *
「あらあら。見事にびしょびしょねえ。……あれ? あの、もしかして明里ちゃん?」
家に帰るや否や、母さんは『明里ちゃん』と名前で呼んだ。あれ? なんで知ってるんだろう? と、当時の僕は不思議に思った。
「あら明里。どうしたの? 暑いからって水遊びでもしてたの?」
リビングからひょこっと玄関に顔を出したのは母さんのお友達だった。名前は確か天堂さん……ん? 天堂って、確かこの女の子も。
「ま、ママ! ごめんなさい! み、水遊びしてたんじゃなくて、その……蛇口を捻りすぎちゃって、その……」
「あははっ! いいのいいの。別にそんなことで怒ったりしないわよ。それよりも。良かったわね、お友達ができて」
「お、オトモダチ?」
明里は僕の方へ向き直る。
「大輔くん、私のお友達になってくれるの?」
「うん、僕と明里ちゃんはもうお友達だよ。だから、これからは毎日一緒に遊ぼうよ」
その時の明里の笑顔。それはまるで、大輪の花を顔いっぱいに咲かせたような、とっても可愛らしい笑顔だった。
「ありがとう大輔くん!」
「でも母さん? 明里ちゃんのことを知ってたならどうして早く教えてくれなかったの?」
「あ、えっとね……」
言いづらそうにしている母さんに代わって、明里のお母さんがその質問に答えてくれた。
「何回も紹介しようと頑張ったんだけどね。でも明里ったら人見知りが激しいからピューッと逃げちゃってたのよ。でも良かった。ごめんね大輔くん。これからも明里と仲良くしてあげてね」
「うん! もちろん!」
* * *
という感じの出逢いだったわけなんだけど……。
「待て大木! こらあーー!!」
「ご、ごめんなさい明里様! もう変なことはしないのでどうかお許しを――ぐはぁっ!!」
大木がまた明里の友達に失礼を働いたようで、明里は怒りに任せてフルパワーで鋭い蹴りをみぞ落ちに食らわせていた。
人って、こんなにも変わるものなんだなあと、改めて思う僕であった。
【続く】
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#ハッピーエンド
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