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「見えてきたよー。あれがひだまりの丘だよぉー」
見えたというのか、目の前の林の少し奥が小高くなっている辺りを指差してミーナが言う。
「じゃあ馬車を降りてここからは歩きだねー」
街道をそれて林の手前に馬車を停めたミーナは飛び降りるとリュックと水筒を身につけ、早く早くと急かしてくる。
スキップしそうなウキウキ女の子と虫網かついだ剣士。腰に差したなまくらがなければ完全にこれは──。
歩くことしばらく。少し開けたところに短い下草に小さな花がまばらに咲いている小高い丘に俺たちは到着した。少し傾きかけた日が差し込み穏やかな陽気が綺麗だと素直にそう思った。
気づけばミーナがリュックからシートを取り出し広げてサンドイッチと水筒から水を出してくつろいでいた。
「ビリーくんも座って座って。ほらチョウチョもいるよ」
手招きされ腰を下ろした俺は周りにヒラヒラと舞う青や黄色の蝶を見ながら出された水とサンドイッチを口にする。なぜだかよく冷えた水がとても美味しい。
見上げれば小鳥が囀り、なんと気持ちの良いことか。
もはや完全にピクニックである。
「たまにはこういうのも悪くないな」
隣ではミーナが小鳥に話しかけている。会話が成立してるとは思えないが、パン屑を与える姿は愛らしく見ていると腹の底から重く熱い息が吐き出された気がする。
それはきっと先日の件から渦巻いていた負の感情なのだろう。今この時だけは心穏やかにいても良いのではないか。
「良いところでしょー? ポカポカ気持ち良くてねー。いつかまたここでピクニックしようねー」
とうとう言質をとってしまった。まあ、その提案にはとりあえず頷いおいた。そんな先の約束が果たされるか分からないが、仲間を失った1人者の俺にはそう言うのがあれば死なない理由とか、生きる目的とかになるのかもなんて想いながら。
ぼんやりと眺めているその視界に光の粉がちらちらと降り注ぐ。とても綺麗だ……木漏れ日に形があるのならこんな感じなのかな。
「んーっ。ビリーくん、お待たせ。虫とりしよっかー」
軽く伸びをしながら耳をぴくぴくとさせてまるで寝起きの様にミーナがそう声を掛けてきた。実に可愛らしい子である。
そうそう、俺は虫とりに来たんだった。まるで一枚の絵画のような景色に見惚れて目を細める。
視界を彩る光の粉は少し大きく粒と呼べる大きさになったかと思うと、次第に赤みを帯びてくる。ふと、ミーナから視線を外し光の方を見ると、見上げた先に羽を広げた太陽がふたつ俺たちを見下ろしていた。