テラーノベル
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教室の空気は、昨日の暴力の余韻でまだ重く沈んでいた。日下部は図書室に呼び出されていて、遥はひとり、机の端に押しやられるように座っている。
加害者たちは輪になり、にやにやと顔を見合わせながら、今日の“遊び”のルールを確認している。点数制の罰ゲーム。昨日の身体的羞恥に続き、今日は精神的な暴力がテーマらしい。「昨日より派手にいけ」と、誰かが囁く。
遥は呼吸を整えながら、心の中で決意する。日下部を巻き込ませてはいけない――そのためには、自分が耐えなければならない。
「……俺、全部、受けるから……」
思わず声に出した。加害者たちの目が一斉に向く。笑い声が教室にこだまする。
「へぇ、今日も自分が犠牲になるつもりか?」
指で遥の胸を軽く突き、周囲が笑う。
「日下部には、何もさせないでくれ……俺がやる……」
言葉を吐きながら、身体が小さく震える。内心では、吐き気と羞恥、痛みと自己否定が押し寄せていた。自分がすべて引き受けなければ、日下部が傷つく――それしか考えられない。
加害者のひとりが机を蹴り、プリントを遥の膝に散らす。紙の端で指先を切り、微かな血が滲む。誰も手を貸さない。教師は保健室にいるふりをしながら、カメラ越しに点数を付けている。観察され、遊ばれ、評価される感覚。
「もっと必死になれよ、お前」
誰かが笑いながら、遥の肩を押し、声を低く嗜虐的に囁く。
遥は必死で耐える。痛みと羞恥が自分の全てを押し潰す。内側では、自分を責める声が繰り返す――「汚れている」「守りたいと思うな」「触れたいなんて、望むな」。
だが、耐えるだけでは終わらない。加害者たちは心理を巧妙に刺激してくる。
「お前がやるなら、日下部にやらせずに済むって思ってるんだろ?」
誰かが声をかける。笑いながら、さらに屈辱を積み上げる。
遥は自分を折り曲げるように、膝を抱え、震えながら言う。
「……俺が……俺が……何でもするから……」
その声に、教室の笑いが増幅される。点数制の得点計算が、遥の心をさらに抉る。今日のルールは“過去”テーマ。家庭やトラウマに触れ、精神を徹底的に揺さぶる。誰かが紙に書いた「昨日の夜、何があったのか話せ」と挑発し、点数を稼ぐ。
涙がこぼれそうになるが、遥は顔を上げることすらできない。日下部に手を出させるわけにはいかない――それだけが支えであり、引き受ける理由だった。
教室の中、笑い声と嗜虐の視線に晒されながら、遥はひとつの覚悟を胸に刻む。
(……俺が全部、耐える……日下部には、もう何もさせない……)
その覚悟が、さらなる罰の標的として、次の“ルール”を加害者たちが思いつく種となる。今日も教室は、笑いと羞恥と痛みで歪んでいく。
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