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あの日から2週間。MV収録後のプチ打ち上げは、メンバー全員が参加できるという奇跡のスケジュールだった。
が。舘さんの呑みっぷりと場の雰囲気につい乗ってしまった康二が酔い過ぎてしまった。
潰した本人とほろ酔いの佐久間くんが2人できゃっきゃとする中、阿部ちゃんとふっかさんは《康二大丈夫ー?》と両脇で甲斐甲斐しく介抱してくれている。
岩本さんも《ちょっとトイレついでに水とおしぼり貰ってくるわ。》と席を立つ程だ。
「あかーん!もう呑めへん!!眠たい!!」
若干の舌足らずでそう放つと、全身で発言の通りに『もう呑めない』と表すが如く、重力に引かれるがままに身体を床に投げ出す。あまりの勢いの良さに危険を感じ、まずは頭を支えようと2人が身を乗り出したが、その頭の先がちょうど俺の胡座の上だった。…ちょっと痛い。
「めめだぁ。めめぇーーー!」
目もロクに開いていないのに、俺を下から視認した事実を言葉に出した康二は、へらへら笑いながら腰に手を回して腹に顔を埋めてくる。
「あっ涼太見て!蓮の康二シートベルト!!にゃはははは!!!」
「おーい康二ー、あんまりやると目黒がまた怒って抜け出されるぞー。」
そう茶化す彼らは楽しそうにラウールを可愛がってて何よりです。でも本人嬉しい1/3、ウザい2/3な顔してるからそろそろやめてあげて。ていうかしょっぴーが止めてよ!何その光景見てゲラゲラ笑ってんだよ!!
…と、一通り思ったことを頭の中でツッコんだ後、人知れず俺はふぅう、と長い溜息を吐いた。頭の中がどんどん冷静になっていく。
…まあいいや、そんなことよりこの現状だ。しがみついたまま今にも寝そうな康二をどうにかしなきゃ。
あと、普通にトイレ行きたい。絶賛どう帰すか会議中の2人に一旦預けようか。
「ふっかさん?ちょっと俺トイ…」
「、めめ…っ?」
一旦膝を浮かせた瞬間に掴まれた右腕。振りほどけない程ではないが、しっかり掴んで離さない。
反射的にその本人に目を向ければ、眠気と酔いで焦点が若干合わず、とろみを増した上目遣いで見つめてきていた。
「置いてかんで…?」
その一言が、もう、なんか…ね?ふっかさんも阿部ちゃんも顔は背けてるけど肩震わせてるのは流石に解るよ??
その向こう側では見逃したであろう4人──というか主にピンク頭が《何!?何で阿部ちゃんもふっかも笑ってんの!?!ねぇー!》って騒ぎ立てるし。
戻ってきた岩本さんがグラスとおしぼり持って、状況解らずに頭上に?を3つ程浮かべてぽかんと立ち尽くしてるし。
───あぁ、もう。
気付けばその間に寝落ちてしまっていた康二の寝顔を見つめ、すっかり身動きが取れなくなった俺は、未だに現状を自己処理しようとしている岩本さんに店員さんへのタクシーの手配をお願いする羽目になった。本当ごめん岩本さん、今度何か好きなの奢る。
「康二、歩ける?」
「んんー?、うーん…」
康二の自宅から少し離れた所でタクシーから降ろしてもらい、半寝で覚束無い足取りの彼を肩抱く。身体同士が擦れてズレる彼の帽子と周囲に気遣いながら、着実に運んでいく。
「康二?すぐ入れるように鍵、準備しといて。」
「かぎぃ?どこやったかなぁ…。」
「あっ、ちょっ…!」
酔いに歪んだ視界と俺の咎める声を無視して、急に立ち止まった康二は勢いのままにサコッシュを豪快に漁る。案の定、中の荷物はポロポロと舗道へと零れ落ちていくわけで。
その中でキーケースが落ちた事も知らぬまま康二は《あれぇ?》と探し続けるから、俺は拾い上げたキーケースを無理やり彼の視界に入れ、幼児に言い聞かせるように伝えた。
「康二、あったよ。探してる間に鞄から落ちた。」
「あ、ほんまぁ?ありがとう!また落としたらあかんからちょっと持っといてくれへん?」
「わかった。」
「あかんわ、ほんまに今日は酔うたわ。」
「…そうだね。もう着くから、頑張って。」
肩に左腕を回させて再び歩きだすものの、ほぼ引き摺るような感じではある。それでも何となく歩は進めてくれてはいる。その間もずっと《めめ、ごめんなぁ。》《ほんまありがとう。》を繰り返す康二の左手首に思わず僅かながらに力が入る。
多分。多分だけど、このまま家に入ってベッドに転がしてしまえば彼はそのまま入眠してしまう。
どこで事件が起きるか解らない物騒なこの都市だ。オートロックとはいえ、完全に安全とは言えない。一番大事な部屋の鍵は掛けておかないと。
でも、そうなると俺は家に居なくてはいけなくなる。流石に起きたら記憶も無いだろう本人の許可なく───…
「めめ、今日泊まってく?」
「………え、?」
「ええよ、今の時間分からへんけど…遅いんとちゃう?」
「まあ、時間は…うん。」
「明日午前中オフやろ?泊まってきや。風呂とか服とかもう好きに使ってええから。」
「う、うん。じゃあ、お言葉に甘えて。」
《うっわ急に他人行儀やぁー!》なんて声を張り上げるものだから、咄嗟に康二の口を手で塞ぎ、周囲を見回した。
それでも康二は楽しそうで、嬉しそうで、仔犬の尻尾が見えたような気がして俺もなんだかその感情に充てられてしまって、
「とりあえず、家まで頑張ってね?」
俺の身体に9割方預けられていた彼の重みも、羽のように軽くなった気がした。