「あんなに重いとは思わなかったよー。でもごめんなさいっ!」
心なしか呆れたような顔をした店員の男のは弓をもとに戻しカウンターの中にある椅子に座りまた本を読み始めた。
「……カエル」
ボソッと呟くのが聞こえた。気のせいかな、と首を傾げる。
なんだかんだ引き起こしてくれることを期待していた少女は、放置されたことにショックを受けたがそれでも素直に感想と謝罪を述べた。
「あなたにはあの弓は重すぎましたね。もっと軽い弓が……こちらなどはどうですか?」
横から声をかけられて初めてここにもう1人店員がいたことに気づいた。
長く尖った耳に綺麗な金髪はサラサラのセミロング。スレンダーなその男はわたしと同じエルフだった。
パチパチと目をしばたかせ、その視線をエルフ店員の頭の先から足の先までを3往復させたのち
「え? ありがとうございますっ? というかあなたエルフですか? この街ではじめてわたし以外のエルフに会いました! 昔からいてるんですか? もしかして弓得意⁉︎ やっぱりエルフには弓ですもんね⁉︎ あなたも弓をすすめちゃうのよね! 弓使えるようになりたいのわたしーーー! カッコいいエルフになりたいのおおおおおおお」
胸元で手を合わせて可愛く感激した彼女は途中からなんだかおかしな興奮をしてエルフ店員の肩に手を掛けて捲し立てた。
「お茶をどうぞ」
目の前のテーブルに置かれたカップを受け取って、ありがとうございますと言った彼女はさすがにどこかバツが悪そうな顔をしていたが、そのお茶の香りにすぐに笑顔になる。
応接間なんて洒落たものはないこの店の隅にある生活雑貨のコーナーで、店の商品のひとつである白地に薄紅で上品に模様の描かれた陶器のティーポットが、お揃いのこれまた陶器のカップにいい香りのするお茶を注いでくれたものだ。
ここは何屋さんだっけとか一瞬考えはしたが、細かいことは気にしないのが楽しく生きる秘訣と信じてる彼女は素直にお茶を楽しむ。
別にここから商談が始まるわけでも、イケメンエルフ店員との甘いひと時が繰り広げられるわけでもないが、自分を落ち着かせるためだけにそうしてくれたことが嬉しくて彼女はおかわりを貰った。断じてただ美味しかっただけではない。
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