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「あっずみん、おはよ! 今日も元気か?俺様は元気だ」

「相変わらずだな。俺もまあそこそこには」



弱点克服の課題を出され、どうにか自分で使えるものはないかと部活動をやっている最中、使う筋肉の研究や、早く走る方法、瞬発力を上げる方法など試した。俺は中距離とハードル走の選手で、障害物を飛び越える、という点に関しては暗殺に使えそうだと思った。足の速さも使いようによっては使えるんじゃないかと、生活と暗殺が切っても切れないようになっていた。

視野が狭いと、指摘されたが、それが表に浮き彫りになっていて、現に弱点克服のために生活しているようなものだった。視野を広く持ち、思考に余裕を持たせること、そうすることで、いついかなる時も冷静沈着な暗殺者でいられると。



「ふあぁ……」

「あずみん、眠たそうだな。何時に寝たんだ?」

「二字は回ってたか」

「俺様は十一時に寝たぞ! 起きたのは七時だ!」

「健康だな」



眠い俺とは真逆に、空澄は今日も元気だと笑っていた。その笑顔を見るだけで満足しつつ、つい昨日の課題をやっていないことを思い出した。居残りでも仕方ないなあと思い、授業中は寝させてほしいと思った。

弱点の克服と研究、そして依頼。それらをこなしているとやはり勉強のほうがおろそかになる。これまで受けた試験では下から数える方が早い。

白瑛コースの中で見たら最下位にいるといっていい。数学も、中学までとは比べ物にならないほど難しいし、もともと理数系が苦手だった俺からしたら、数学が毎日のようにあるのはつらかった。その点、空澄は理数系が得意なようで「楽しいな!」と俺には到底理解できないことを言っていた。数学に関しては今のところ一〇〇点をキープし続けている。



「俺様、学食に行ってみたい!」

「まだ朝だぞ? 朝食取ってないのか?」

「ちゃんと食べたぞ!プレートだった!」

「……あっそ」



空澄の言うプレートとは何かわからなかったが、きっとすごいに違いないと俺は空澄を見た。こんな金銭感覚その他もろもろ一般常識には当てはまらない奴が、学食に行きたいとよく言えると思った。その味の質の違いに驚くだろう。だからと言って残されて、俺が食べることにでもなったとしたら、それはもったいない気がする。俺はどちらかというと少食だから。偏食はしないし、出されたものは食べる。それは、最底辺の子供時代を送った名残であり、食べることは生きることだと理解しているから。それでも、あの時十分に食べられなかったこともあって、胃が小さいのかもしれない。先生にもたくさん食わねえと大きくならないぞ? と言われたが、平均身長よりかは伸びたのでまあ、いいだろうと思っている。



「そうだ、あずみん、あずみん。今日は転校生がくるって噂されてたぞ」

「噂だろ? 俺達のクラスじゃないかもしれない」

「帰国じょしって奴だっていってた!」

「帰国子女な……ふーん、この時期にか」



デジャブのように感じつつ、空澄も中学校時代この時期ぐらいに転校してきたなと懐かしく思っていた。だが、帰国子女ということは英語かその他言語どれかペラペラだろうなとも思う。英語は苦手だから、仲良くできるビジョンが浮かばない。そもそも、仲よくしようとも思わない。



「あずみん、楽しみじゃないのか?」

「俺は、お前がいれば……いいや何でもない。そもそも、空澄お前英語理解できないだろ?日本語は話せるだろうが、会話が成立するとは思えない」



俺がそういえば、それは盲点だった。と言わんばかりに空澄は口を開けてうなずいていた。あほ面を今日も拝ませてもらったことに笑いがこぼれつつ、時計を見て、もう少しでホームルームが始まると、廊下でたべっていた俺達は教室に向かうことにした。

滑りこむようにして教室に入り、席に着くとちょうどチャイムが鳴り担任が入ってきた。学校生活にはなれたがこの化け物クラス……普通コースの奴らからは「超人クラス」と呼ばれている俺達ともう一つのクラスはやはり空気感が違うように感じた。独特というか、個性がぶつかり合っているというか。芸能人や、将来のアスリートとして有望な奴らもいて、やはり普通と違うと感じる。俺も普通じゃない生活をしている自覚があるため、一人はみ出しているという感じがないのはありがたいが。



「もう噂になっていると思うが、うちのクラスに転校生が来る。おい、もう入ってきていいぞ」



と、担任は隠す様子もなく、サプライズといった感じもなく、さらっと流して転校生の紹介に入った。さすがに、この年になったら転校生もさほど珍しくないのか、へーみたいななんも言えない空気感が漂う。勿論俺もそのうちの1人だ。


金がかかっているとしか思えない自動ドアが開き、担任に呼ばれ転校生が入ってくる。



(ちっちゃ……)



歩き方はすごくなっているのに、その背の低さや、目立つ白髪の男か女かもわからないような奴が入ってきた。そいつは教卓の上に立つと愛想がよい笑顔を振りまく。そうして、見開かれたアメジストの瞳は一瞬俺と目があった気がした。



(気のせいだよな……)



その一瞬、自分と同じものを感じ、背筋が伸びる思いがした。ゾッと後ろからナイフを突き立てられているようなそんな感覚に。



「初めまして、イギリスから帰ってきました。綴栫泉つづりかこいです」



どうぞ、よろしく。と転校生はにこりと笑った。

声が若干高かったが男だとようやく転校生綴の性別が判明する。見た感じ一六〇前半だと思われるその身長に、ふわふわとした白髪はまるで何かのキャラクターのようだった。ハーフかクォーターかなど一人考察しつつ、綴の自己紹介は続いていた。



「なあなあ、あずみん。凄い可愛いな」

「……そうだな、だが男だぞ」

「そうなのか!?」



こそっと耳打ちしてきた空澄は、綴の性別がわからなかったようで、俺がそういうとカルチャーショック! と口に出しつつ驚いていた。古いというか、そんなに驚くようなことでもないと思った。まあ、空澄はいつものことだし、と放っておきながら俺は綴に視線を戻す。

自分の愛らしさに、容姿によっぽど自信があるんだろう。繕ったような笑みを張り付けて、クラスになじもうとしていた。さすがに、ここまでくるとクラスメイトも黙っておらず、「可愛い」とか「イギリスってことは、英語ペラペラなのか?」とかざわつき始めた。やはり、まだ子供だと思う。自分のことを棚に上げ、俺は他の連中と違うと思いながらも、俺も綴から目が離せなかった。

皆の言う可愛いや、珍しいものを見るような目で見ているのではなく同じ匂いを感じ取ったからだ。



(一瞬だったが、感じた殺意のようなもの……あの独特な空気、まさかな)



クラスメイトを疑うのもたいがいにしろと、自分で自分を怒りつつ、俺は空澄に視線を戻す。もし、綴が仮に危ない奴だったとして、学校で空澄を守れるのは自分しかいなかったからだ。空澄は、昔から暗殺者にねらわれていると公言していたが、その実ボディーガードの類は付けていない。命の危険があるというのに、そういうのは普通一般人は付けないだろ? の一言で拒否しているらしい。空澄も普通に憧れているのだと思い、俺と同じだなと親近感がわく。俺も空澄もないものねだりで、普通なら手に入る当たり前すらも手に入らないのだ。

空澄は今でも命を狙われている。だからこそ、俺がそばにいて守ってあげなければと、勝手に空澄のボディーガードを名乗っている。空澄は「あずみんと俺様は友人!」の1点張りだが、俺は友人兼ボディーガードだと自分のことを思っている。先生に教えてもらった力を技術を友人のために使うなら罰は当たらないだろうと思っている。だが、そんな為に教えた力じゃない。と言われたらそれまでの話なんだが。



(友人を守るために、人を殺す……確かに間違っているのかもな)



方法が分からないから、そうするしかない。俺は間違いもいつか正解になるんじゃないかと思いつつ生きている。空澄がいてくれれば、あいつがこちら側に来なければ俺は自分の手が汚れてもいいと思っている。

そんなことを考えていると、自己紹介が終わり、綴がこちらに向かって歩いてきた。どうして? と一瞬身構えてしまったが、俺の横に座った綴は何を言うでもなく「よろしく」と先ほどと同じ笑顔を俺に向けるだけだった。



(気のせい、だったか)



話を聞いていなかったこともあり、綴の席は俺の隣になった。左隣には空澄、そして右隣に綴という挟まれた形になり微妙な空気感が漂う。綴りがおしゃべりでなきゃいいなと、空澄だけで手いっぱいの俺はそう願うしかなかった。



「僕、久しぶりに日本に戻ってきたから、色々忘れてることもあるし、一杯教えてね。梓弓クン」

「……あ、ああ。だが、俺も分からないことだらけだし、他の奴に聞いた方がいいと思う。勉強なんてほんと」



ずいっと体を乗り出して聞いてきた綴から目をそらして、俺は関わらないでくれという意味でそう発言した。だが、綴は俺の意図をくみ取ってくれなかったのかクスリと笑った。そのしぐさは、愛らしいとは思う。空澄よりも身長が低いし、足も細い。折れてしまいそうなほどに。

そう綴の分析をしていると、いきなり綴が俺の手をつかんだ。



「……ッ!?」



あまりに突然のことで、思わず振りほどいてしまいそうだったが、俺の手を確かめるように、小さな両手で包み込まれ、払うにも払えなくなってしまった。掌、手の甲、指の形、長さとなぞるようにその白い指を動かしていく。



「僕ね、運命感じちゃったかも」

「は、はあ?」

「梓弓クンの手、すごくごつごつしてるのに、指はすらっと伸びていてかっこいいし、その目に射止められちゃった。凄くぞくぞくするよ」



と、まるで舌なめずりするように、舐めるような、恍惚とした笑みを向けてくる綴。さすがに悪寒が走り、俺は手を振りほどく。



「どうした?あずみん」

「い、いや何でも」



空澄がひょこりと顔をのぞかせたので、俺はとっさにごまかし視線だけ綴に向けた。綴りは悪気ないように手をひらひらとふっている。



(俺を試しているのか?)



その笑顔の裏に隠された、ただならぬ殺意と好奇心を俺は垣間見た気がし、気を許してはいけないと、直感的にそう思った。

透明で澄んだ空の君に告ぐ

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