テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

蓮司の相談室2

一覧ページ

「蓮司の相談室2」のメインビジュアル

蓮司の相談室2

37 - 第37話 “消えたい”って言葉を飲み込むようになった

♥

32

2025年11月05日

シェアするシェアする
報告する

夜。

時計の針が十一時を過ぎたころ、静まり返った部屋のドアが小さくノックされた。


「……入っていい?」


その声はかすれていて、どこか怯えていた。


蓮司は、読みかけの本を伏せたまま、視線だけでドアを指す。


「いいよ。どうぞ」


入ってきたのは、高校生くらいの女の子だった。制服の上着を握りしめていて、

寒いのか、それともただ、緊張しているのか分からない。


「……あの、変なこと言うかもしれないけど」


彼女は椅子に座ると、少し間を置いてから、ぽつりと続けた。


「最近、“消えたい”って思うんです」


蓮司は頷くだけで、言葉を挟まない。

彼女はその沈黙に少し安心したようだった。


「前は誰かに言ってたんですよ。“もう無理かも”とか、“生きてるの疲れた”とか。

でも言うたびに、“そんなこと言うなよ”とか“頑張れ”って返されて……」


彼女の指が、膝の上でぎゅっと組まれる。


「それ聞くの、もうつらくて。だから言わなくなりました」


蓮司は、机の上のマグカップを指先で軽く回しながら言う。


「“消えたい”って言葉、悪いものみたいに扱われるけどさ。

本当は、それだけの気持ちを抱えてるってことだよ」


彼女の目が、一瞬だけこちらを向く。


「でも……言っても、何も変わらないじゃないですか」


「変わらないかもしれない。でも、“言えた”ってこと自体が、大きいんだよ」


蓮司の声は穏やかで、静かな夜気に溶けるようだった。


「誰かに届くかどうかより、“自分が声にした”ってこと。それだけで、少し息ができる」


彼女は俯いたまま、小さく息を吐いた。


「……本当は、気づいてほしかったんです。

でも誰にも届かなくて、もう言葉を出すのも怖くなって」


「うん。怖くなるよな」


蓮司はゆっくりと頷く。


「人に言っても、軽く流されたり、正論を返されたり。

だから余計に、自分の気持ちが“間違い”みたいに感じる。

でも、そう感じてる時点で、もう充分頑張ってる」


しばらく沈黙が落ちた。

外では風が木の枝を揺らしている。

その音が、やけに遠く聞こえた。


「……蓮司さんは、そんなときどうしてますか?」


「俺?」


蓮司は少しだけ笑って、マグカップを持ち上げた。


「無理に前向きにはならないかな。

“消えたい”って気持ちも、ちゃんと自分の中に置いておく。

それを無理に否定すると、余計に苦しくなる」


彼女はその言葉を噛みしめるように、うなずいた。


「……置いておく、か」


「うん。ちゃんと自分のものとして認める。

それで、少しだけ呼吸ができたら、それでいい」


沈黙が戻る。

でもその沈黙は、さっきよりもやわらかかった。


彼女が帰り際、ドアの前で小さく呟いた。


「……“言ってもいいんだ”って思えたの、久しぶりです」


蓮司は微笑んで、


「また来な。消えたくなったときでもいい」


とだけ言った。


ドアが閉まり、静寂が戻る。

マグカップの中で、まだ少しだけ湯気が揺れていた。


loading

この作品はいかがでしたか?

32

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚