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紫道
第6話 手出し
朝の廊下には、まだだれの手もついていない感じがあった。
床のつや。
窓の向こうの空気。
階段の手すりの冷たさ。
けれど教室の扉の前まで来ると、それはもう少しちがうものになる。
触れた跡が残る場所。
だれかが先に決めた温度。
そんなものが、扉のすぐ向こうにある。
ミチルは扉の横で一度だけ立ち止まった。
右手の親指が、左手のあかぎれに触れる。
小さい痛み。
そこだけは、まだ自分でつかめる。
教室に入る。
机。
いす。
窓際の光。
前の列の背中。
何も変わっていない。
なのに、変わっていないことがもう安心にならない。
「おはよ」
ヒナの声がした。
肩の少し上でそろえた髪の毛先が、小さくはねる。
机の上のノートの角をそろえながら、ほんの少しだけ顔を上げる。
「……おはよ」
返した声は小さかった。
小さすぎたかもしれない。
でも大きいよりましな気がした。
サエがその横で口元を押さえた。
笑ったのか、咳をこらえたのか、よくわからない。
よくわからないまま、そういう動きだけが増えていく。
ユウタは後ろの席で椅子を引いていた。
脚が床をこする音が長い。
わざとなのか、ただ雑なのか、もうその違いはだれも確かめない。
ナナカは頬杖をついて、朝の灯りを片頬に受けていた。
肩より少し下まで落ちる髪。
前髪の下の目だけが先に動く。
笑っていないのに、口元だけはやわらかい。
「ねえ」
その一言で、教室のいくつかが止まる。
もうだれも、その止まり方を不自然だと思わない。
「なに」
ミチルは机にかばんを置きながら言った。
置いた音が少しだけ大きかった。
「今日さ」
ナナカは首を少しかしげた。
「ちゃんと気をつけてね」
それだけだった。
それだけなのに、教室の中で意味が増える。
何を。
どう。
だれに。
全部言われていないのに、全部そこに入る。
ユウタが鼻で笑う。
「またなんかやりそうだし」
サエも続く。
「たしかに」
たしかに。
その言葉は、最近この教室でいちばん軽くて、いちばん重い。
ミチルは返さなかった。
返すと増える。
増えるものは、いつもこちらに不利な形になる。
一時間目は理科だった。
プリントが配られる。
ページをめくる音。
椅子を引く音。
窓の外で、風が木を少しだけ揺らす。
ミチルは机の上のプリントをそろえた。
紙の角を指で押さえる。
隣の席のヒナが消しゴムを落とす。
ころん、と軽く転がって、ミチルの椅子の脚のそばまで来る。
ミチルは反射で拾おうとした。
ただそれだけだった。
けれど、その手が床へ伸びる前に、ヒナが小さく言った。
「あ、いい」
いい。
やわらかい声。
でも、先に止める声。
ミチルの手はそこで止まる。
床の少し上で、行き場を失う。
「なんで」
聞いたつもりはなかった。
でも口から出た。
ヒナは困ったように笑った。
片側にえくぼは出ない。
ただ、困っただけの顔。
「いや、なんか……」
その曖昧な言い方の隙間へ、ナナカの声が入る。
「触られたくないんじゃない?」
教室の空気が、静かに前へ傾く。
「ちが」
ミチルが言いかける。
「ちがうなら、何でそんな言い方になるの」
ナナカ。
「いや、別に」
ヒナ。
「別に、じゃなくてさ」
ユウタが笑う。
「普通そうなる?」
サエも口元を押さえたまま言う。
「前からちょっとあるしね」
前から。
またそれだ。
いま起きた小さなことに、昨日までが貼られる。
貼られたものが、そのまま証拠になる。
結局、ヒナは自分で消しゴムを拾った。
細い指先で、そっと。
それだけなのに、ミチルは自分が何か汚いものでも触ろうとしたみたいな気分になる。
理科の授業が始まっても、その感じは残った。
教師の声。
板書。
ノートの線。
全部、ちゃんと進んでいる。
なのに、自分の席のまわりだけ、床に見えない薄い膜が張っているみたいだった。
うかつに足を動かせない。
椅子を引けない。
ものを落とせない。
拾えない。
休み時間、サエが前の席の子に話していた。
「この前もさ、足当てられたってユウタ言ってたし」
ユウタが後ろからすぐ乗る。
「ちょっとな」
ちょっと。
その言い方がもう、この教室にちょうどいい。
軽い。
軽いから流せそう。
でも流れない。
「ちょっとならいいって思ってそう」
サエ。
「そういう人っているよね」
後ろの女子。
ミチルは席を立てなかった。
自分の名前が出ていない会話ほど、逃げ場がない。
向こうは向けていない顔で言えるからだ。
ナナカが言う。
「ミチルって、ちょっとならいいって思ってる感じある」
教室のあちこちで、小さな笑いがほどける。
同意の音。
否定しない音。
ミチルは机の端を見つめた。
木目の線が細い。
そこに視線を置いておけば、まだ何も壊れない気がした。
「思ってない」
やっとそう言う。
ナナカがすぐこちらを見る。
頬杖は崩さない。
「じゃあ何で」
「何でじゃなくて」
「何で気をつけないの」
「気をつけてる」
「気をつけててそれなんだ」
その一言に、ユウタが笑う。
サエもつられる。
後ろの子も笑う。
気をつけててそれなんだ。
それは、失敗よりもっと悪い。
直らない感じがするから。
二時間目の体育は校庭だった。
列になって移動する。
上履きから運動靴に履き替える。
靴箱の金具が鳴る。
朝よりも風が少しある。
ミチルはなるべくだれの近くも歩かないようにした。
でも近くを避けようとすると、その避け方自体が目立つ。
「避けられてるんだけど」
サエが笑う。
口元を手で隠したまま。
「え、やだ」
だれかが言う。
笑いが混ざる。
ふわっと、軽く。
軽い。
まだ軽い。
でも、軽いものほど人数が増えやすい。
校庭で準備運動をしているあいだ、ユウタがミチルの後ろに立った。
たいした距離ではない。
体育ならそれくらい普通だ。
なのに、ミチルの肩は少しだけ上がる。
「そんなに近いの嫌?」
ユウタが聞く。
「別に」
「別にって顔じゃない」
サエが前から振り返って笑う。
ナナカは少し離れたところで髪を耳にかけていた。
見ている。
それだけで、やりとりが整う。
ボールを使う練習が始まった。
二人一組で投げるだけの、簡単なもの。
ミチルの相手はリオだった。
あごの少し下で切られた髪の毛先が、走るたび少しだけ外へ向く。
リオは最初、無言でボールを投げた。
受け取る。
返す。
また受ける。
三回目で、ミチルが少しだけ取り損ねた。
ボールが腕に当たり、ころんと地面へ落ちる。
それだけだった。
けれど、サエがすぐに笑う。
「危な」
ユウタも言う。
「ほらね」
ナナカが、離れたところから小さく言った。
「また」
また。
それだけで、いまの落球が過去の列に入る。
リオがボールを拾う。
そのとき、ミチルの指先が少しだけリオの手首に触れた。
本当に少し。
風のようなものだった。
でもリオは、反射みたいに手を引いた。
その動きが、周りの目を呼ぶ。
「あ」
サエが言う。
小さい声。
でも、周りには十分。
「やだ」
別の女子が言う。
笑いながら。
「今の見た?」
ユウタが笑う。
「触ってた」
触ってた。
それだけで充分だった。
ミチルは言う。
「いや、当たっただけ」
「当たっただけでも嫌なんでしょ」
ナナカ。
リオは何も言わない。
でも、引いた手はもう元の位置に戻りにくい。
ミチルは、その手の引かれ方を見てしまった。
自分でも、少しきつく息を吸う。
「ごめん」
反射でそう言う。
するとサエが、うわ、と声を漏らした。
「謝るんだ」
ユウタも言う。
「やっぱわかってるじゃん」
謝ることすら、もう証拠になる。
体育のあと、教室へ戻る階段で、後ろから軽く肩を押された。
ほんの少し。
前へ出るくらいの力でもない。
でも、だれかの指先の形だけが残る。
振り向くと、後ろにいた女子が笑っていた。
「ごめん、ちょっと当たった」
声は軽い。
軽すぎる。
その子は名前も出てこないくらい、ふだんは特別話す相手ではない。
そんな子まで、もうその言い方を知っている。
ミチルは何も言えなかった。
言えば大げさになる。
言わなくても、何かが自分の中に残る。
その女子は、すぐ前へ戻っていった。
サエと目を合わせ、小さく笑う。
サエも口元を押さえて笑う。
それはもう、だれか一人のいたずらじゃない。
形の真似だった。
教室の真ん中で覚えた形を、別の手がなぞっているだけ。
昼休み。
教室にはパンの袋の音と、弁当箱のふたの音が混ざる。
ミチルは机の上に弁当を置き、ふたを開けた。
家で詰められたごはんの形。
卵焼き。
小さい唐揚げ。
それだけが、教室の外の匂いをしていた。
「ねえ」
ナナカが言う。
「ミチルってさ、触るの好き?」
教室が少しだけ静かになる。
問いが投げられる形が、もうみんなわかっている。
「は?」
ミチルが顔を上げる。
「人に当たったり、足踏んだり、ちょっと触れたり」
ナナカは数えるみたいに言う。
「無意識でやってるならさ」
「余計よくないよね」
「気をつけようがないし」
三つ。
短く。
きれいに。
そのまま渡せる。
「やってない」
ミチルは言う。
「やってるじゃん」
ユウタ。
「今日も」
サエ。
「リオのとき、見たし」
後ろの子。
リオは弁当箱を見ている。
その沈黙が、否定ではない沈黙に見えてしまう。
ミチルは喉が乾く。
弁当のごはんが急に遠くなる。
「当たっただけ」
「当てたんでしょ」
ナナカ。
「ちがいある?」
ユウタ。
「嫌だった側には同じだよね」
サエ。
嫌だった側。
またそこへ置かれる。
ミチルは、箸を持つ手に力が入る。
その力の入り方まで、だれかに見られていそうだった。
「ミチルのそれ」
ナナカが言う。
「自分はちょっとのつもりなんだよね」
自分はちょっとのつもり。
その一言は、ずるいくらいよくはまる。
小さなこと全部へ使えるから。
後ろの席の男子が笑いながら言う。
「それ一番だるいやつ」
だれでも入れる。
だれでも言える。
もう、その高さまで下がってきていた。
ミチルは弁当のふたを閉めたくなった。
でも閉めたら拗ねたみたいになる気がして、閉められない。
「そんなに嫌なら近寄らなければいいじゃん」
思わず言ってしまった。
静かな声だった。
でも、静かだからこそよく聞こえた。
教室が一度止まる。
ユウタが先に笑う。
「出た」
サエも重ねる。
「被害者ぶるやつ」
ナナカは少しだけ目を細めた。
「近寄らなければって」
一拍。
「クラスでそれ言うんだ」
二拍。
「自分が気をつければいいだけなのに」
三拍。
きれいに閉じる。
リオが小さく言う。
「……そういう言い方、やだ」
それで十分だった。
午後の授業はずっと長かった。
ノートを取る。
ページをめくる。
先生の声を聞く。
その全部のあいだに、身体が少しずつちぢこまる。
椅子を引くのも気をつける。
歩くのも気をつける。
消しゴムを拾うのも、手を伸ばす角度まで考える。
でも考えれば考えるほど、自分の身体がこの教室に合っていない気がする。
手も足も、少しずつ大きすぎる。
少しずつ邪魔だ。
五時間目の終わり、プリント回収があった。
前の列から後ろへ渡すだけ。
いつものこと。
ミチルはプリントを受け取って、後ろのユウタへ渡そうとした。
そのとき、ユウタの指先が引く。
ほんの少しだけ。
「落としそう」
ユウタが言う。
「ちゃんと持って」
サエが笑う。
「また当たりそう」
後ろの女子も笑う。
それはもう、冗談の形だった。
冗談なら、だれでも乗れる。
本気よりも入りやすい。
ミチルはプリントを机に置いて、ユウタの机の端へ押した。
ユウタはそれを指先だけでつまんだ。
「こわ」
だれかが言う。
理由のない軽い言葉。
でも、それでじゅうぶん場ができる。
放課後、掃除当番でミチルはほうきを持った。
床をはく。
紙の切れ端。
消しゴムのかす。
机の脚のあいだの小さなほこり。
いつもより人が残っていた。
帰るでもなく、手伝うでもなく、ただいる。
そういう残り方をする子が増えていた。
ナナカは教卓の前にいた。
頬杖はついていない。
立ったままでも、やはり空気の置き方が変わる。
「ねえ」
その声で、数人がちゃんと聞く。
「ちょっとくらいならいいって思ってる人って」
「こっちも、ちょっとくらいやってよくない?」
その言い方は、冗談みたいだった。
笑って言える程度の軽さ。
でも、軽いまま教室の真ん中へ置かれる。
ユウタが先に笑う。
「たしかに」
サエも口元を押さえた。
「それはそう」
後ろの席の女子が、じゃあさ、と言いながらミチルの机の横を通った。
そのとき、わざとでも偶然でもいいくらいの強さで、肩が当たる。
「ごめん」
すぐ言う。
軽く。
笑いながら。
もう一人が、机の後ろを回るとき、ミチルの椅子の脚を靴先でこつんと蹴る。
「やば、当たった」
それも笑いながら。
ミチルは顔を上げた。
だれの目も、ちゃんと悪くない顔をしている。
軽い。
遊びみたい。
でも身体だけが、少しずつ押される。
「やめて」
やっとそう言う。
ユウタが笑う。
「ちょっとじゃん」
サエが続く。
「自分はもっとやってたのに?」
「やってない」
「またそれ」
ナナカの声が入る。
「やってないなら、何でみんな嫌がってたの」
みんな。
その言葉が入ると、個人の手がすぐ群れになる。
別の男子が通りすがりに、ミチルのほうきの先を靴で軽く踏んだ。
本当に軽く。
でも、ほうきが止まるには十分。
「え」
ミチルが手を引く。
その男子は笑って、すぐ足をどけた。
「ちょっとだけ」
教室に笑いが広がる。
乾いた、短い笑い。
ちょっとだけ。
ちょっと当たった。
ごめん。
冗談。
気にしすぎ。
全部、前にどこかで聞いた形だ。
それが今、別の手から出ている。
ミチルは、ほうきを持つ手に力が入る。
でも振り払えない。
強く持つだけで、怒っているように見えそうだった。
「ねえ、怒ってる?」
サエが聞く。
「それはちがくない?」
ユウタ。
「自分がやられたら嫌なんだ」
後ろの女子。
言葉がどこからでも来る。
ナナカが静かに言う。
「ほらね」
その一言だけで、場が整う。
「ミチルって、自分がするぶんにはちょっとで」
「自分がされると嫌なんだよ」
「そういうとこだよね」
三つ。
それで充分だった。
ヒナは教室の後ろで雑巾をしぼっていた。
細い手首。
袖口からのぞく指先。
その動きは止まったけれど、声は出なかった。
タクミは窓際で机を戻していた。
大きな手で机の端を持ち上げる。
一度だけこちらを見る。
でも、すぐ前を見る。
止めるには、もう少し重さがいる。
その重さをだれも出さない。
ミチルの横を通った男子が、今度は本当に靴先を踏んだ。
強くない。
でも、わかった。
当たったではない。
踏んだ。
その男子はすぐに足をどけた。
「ごめん、ちょっと踏んだ」
笑いながら。
教室がまた笑う。
サエも、ユウタも、後ろの子も。
ミチルは足を引いた。
痛みは大したことない。
でも、その言葉のほうが重い。
「……やめて」
声がかすれる。
「何で」
ユウタが言う。
「ちょっとじゃん」
「ミチルがいつもやってるやつ」
サエ。
「それとも、されるのは嫌?」
後ろの女子。
ナナカがそこで、ほんの少しだけ笑った。
きれいな笑い方だった。
口元だけがやわらかくほどける。
「文句言えないよね」
静かな声。
でもよく届く。
「だって」
「先にそういう空気にしたの、ミチルだし」
先。
また順番が決まる。
先に悪い。
だから、後から少しくらいならいい。
ミチルは言い返したかった。
でも何をどう返しても、もうこの教室では軽いほうが勝つ。
ちょっと。
少し。
冗談。
遊び。
ごめん。
それらは全部、加害を小さく見せるための服みたいだった。
着てしまえば、だれでも悪くない顔になる。
掃除が終わるころには、ミチルの机のまわりでだれかがぶつかるのが普通になっていた。
机の角に肩。
椅子の脚に靴先。
すれ違いざまの腕。
消しゴムをよけるときの指。
どれも強くない。
強くないから、止める理由が細い。
「また当たった」
笑いながら。
「ごめんごめん」
軽く。
「そんな顔しないでよ」
やわらかく。
だれも大きなことはしていない。
それがいちばんまずかった。
大きくないから、だれでもできる。
自分だけが悪いことをした感じがしない。
前の人もやってたから。
ちょっとだけだから。
言葉まであるから。
ミチルはかばんを持った。
肩にかける。
そのときも、後ろの子の肘がかばんに当たる。
「うわ、重」
笑い声。
「何入ってんの」
「変なもん入ってそう」
それにも笑いがつく。
もう、だれでも言える。
だれでも触れる。
だれでも少しだけ参加できる。
ナナカは教卓の横でそれを見ていた。
見ているだけ。
自分の手はほとんど使わない。
でも、だれの手もここへ向くように、声だけを置く。
「しょうがないよね」
その一言が、最後に教室へ落ちる。
しょうがない。
それは許しではなく、免罪符だった。
帰り道、ミチルは階段の踊り場で一度だけ立ち止まった。
上履きの先の灰色のこすれを見る。
今日ついた新しい汚れは、見てもよくわからない。
でも、足にはまだ、さっき踏まれた感じが残っていた。
少しだけ。
ほんのちょっと。
言葉にすれば軽い程度。
その軽さが、いちばん消えない。
次の日の朝、教室へ入る前から、ミチルの身体は少し先に固まっていた。
肩。
手首。
足先。
扉を開ける。
だれかが笑う。
だれかが言う。
「あ、おはよ」
ふつうの挨拶みたいに。
「今日は何人に当たるかな」
それに、笑いがつく。
だれの声でもよくなっている。
ナナカは頬杖をついたまま、こちらを見た。
前髪の下の目だけが先に動く。
「気をつけてね」
やわらかい声。
「みんなも」
その一言に、もう説明はいらなかった。
この教室では、だれかが最初の一歩を踏み出す必要すらなくなっていた。
ちょっとぶつかる。
ちょっと押す。
ちょっと踏む。
それだけなら、自然に参加できる。
加害の高さは、いつのまにか、教室の床と同じくらいまで下がっていた。
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うわ……、読んでいて胸が苦しくなりました。いじめの描写が「軽い」からこそ、じわじわと空気が変わっていくプロセスが怖いほど丁寧に描かれていますね。特に「ちょっと」や「ごめん」という言葉がどんどん形だけになり、本人たちさえ悪意を自覚しないまま群衆化していく感覚——あれは現実でもよくある構造で、本当に胸が痛みました。ナナカの「気をつけてね」の一言で盤面が完璧にコントロールされていく手腕も巧みで、リオンとしても構造に引き込まれました。この先、ミチルはどう抗っていくんだろう……続きが気になります。