第9話 遊びの罪
配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に登場したまひろは、今日は赤い半袖Tシャツにデニムのオーバーオール。肩ひもが少しずれていて、小さな体がより幼く見える。前髪はつやつやのぱっつん、瞳は丸く澄んでいた。
隣のミウは、ベージュのブラウスに水色のカーディガン、ひざ丈のベージュスカート。髪はサイドを軽く編み込み、耳には小さな星形のピアスをつけていた。優しげな笑顔を浮かべ、画面をのぞき込む。
まひろがランドセルのストラップをいじりながら口を開いた。
「ねぇミウおねえちゃん。最近すごく流行ってるゲームあるでしょ? 友だちもみんなやってるんだ」
コメント欄がざわつく。「知ってる!」「うちの子もハマってる」と書き込みが並ぶ。
「楽しいのはいいんだけど……ぼく、ちょっと心配になっちゃったんだ。だって夜遅くまでやめられなくて、学校でも眠そうな子がいるんだよ」
疑惑の芽生え
ミウが頬に手を当て、ふんわり笑う。
「え〜♡ 遊ぶのはいいことだけどぉ……もし生活に支障が出てたら、ちょっと問題かもねぇ」
「うん。僕はただ、“ほんとに安心して遊べるのかな”って思っただけなんだ」
コメント欄は「たしかに依存性ありそう」「でも楽しいからなぁ」と揺れる。小さな疑問が視聴者の心に刺さった。
レイNews記事化
その夜、「レイNews」には記事が並んだ。
1. 大人気ゲーム、子どもたちに“依存”の懸念
2. SNSで広がる声『うちの子が寝不足に』
3. 専門家が警告「課金システムは心理を利用」
4. 過去の依存問題ゲームと比較、同じ構造か
5. 保護者団体『規制を求める署名運動を開始』
本文は淡々とニュース調で書かれていたが、匿名投稿や極端な事例ばかりを前景化し、「危険」という印象を増幅させていた。
群衆の暴走
翌日SNSでは「#子どもを守れ」のハッシュタグがトレンド入り。
「課金させすぎ」「うちの子も成績下がった」「規制すべき」と声が膨らむ。
まとめサイトは「遊びの罪」と見出しを打ち、ワイドショーでは保護者のインタビューを流し、「やめさせたいけど泣き叫ぶ」というシーンを繰り返し放送した。
やがて議員が「調査を検討」と発言。配信会社の株価は下落、ゲーム運営は緊急の利用制限を発表した。
クライマックス
数日後、署名運動は数万筆を超え、自治体は「青少年健全育成」の名目で利用制限を要望。
ゲームはアップデートで大幅に規制がかかり、人気は急速に冷えていった。
結末
その夜の配信。
まひろは赤いTシャツの裾を指でつまみながら、無垢な瞳をカメラに向ける。
「僕……ただ“心配だな”って思っただけなのに」
ミウはやさしく頷き、ふんわり笑う。
「え〜♡ でも、みんなで考えられたんだから良かったんだよね。
遊びは安心して楽しめるものじゃなきゃ♡」
コメント欄は「正しい指摘だ」「守ってくれてありがとう」で溢れる。
その裏で、ミウのPCには次のターゲット候補リストが開かれていた。
「新作アプリ/課金制SNS/子ども向け配信サービス」。
記事の見出し候補はすでに下書きとして並んでいた。
> 無垢な声とふんわり同意、その裏でひとつのゲームは“罪”の名で葬られていった。