テラーノベル
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都内ライブハウス、キャパシティ500人。
開演直前、舞台裏(下手袖)には重苦しい熱気と緊張感が立ち込めていた。楽屋のドア越しにも、超満員の観客が放つ地鳴りのような歓声とざわめきが聞こえてくる。
「……手が冷たいわね、美裕」
出番直前の整列で、私の隣に立った宵闇灯が、ボソリと呟いた。自分の手袋を直しながら、フッと不敵な笑みを浮かべている。
「恐怖? それとも緊張?」
「……ううん。武者震いだよ、灯ちゃん」
私は自分の胸に手をつき、大きく深呼吸をした。
隣では向井沙也加が「神様仏様ルビー様……」と謎の呪文を唱えながら念入りに柔軟体操をし、袖の影では双子の兄・康弘が、私以上に青い顔をしてマイクレシーバーのチェックを繰り返している。
「美裕、康弘君、そして灯に沙也加」
後ろから歩み寄ってきたのは、禁煙の舞台袖で火のついていない煙草を咥えた黒岩Pだ。その脇には、腕を組んで笑う振付師の坂谷と、フードを深々とかぶった高梨冴子の姿もあった。
「客席は、うさぴょんの配信を見て面白半分の野次馬と、アンチと、そしてほんのひと握りの『本物』を期待している客でカオス状態よ」
黒岩Pは鋭い眼光で私たち一人ひとりの顔を見つめる。
「B小町の姉妹グループを名乗り、センターが元男のトランスジェンダー。世間はあんたたちを『炎上狙いのイロモノ』だと思ってる。……上等じゃない。その思い上がりを、ステージの上で根こそぎ叩き潰して来なさい」
「ふふ、私の曲で客全員の脳汁絞り出してやりなよ。音で殺してきて」
冴子が眠たげな目でニヤリと笑う。
「大丈夫! 僕の教えた激しすぎる振り付け、全部出し切ってきてね!」
坂谷が力強く背中を叩いてくれた。
ブザーの音が響き、場内の照明が一斉に落ちる。
客席から湧き起こる、どよめきと怒号に近い歓声。
「行くよ、二人とも」
私は二人を見つめ、力強く頷いた。
「私たちの『C小町』の誕生を……世界に見せつけてやろう!」
**(——ドクン、と重低音が会場の空気を引き裂いた)**
暗転したステージに、高梨冴子の手がけた重厚なエレクトロ・トラップのイントロが響き渡る。
光の束が激しく明滅し、スモークの中から私たちが姿を現した。
客席から「うおぉぉぉ!?」「灯ちゃんー!」「マジで美裕だ!」という叫びが上がると同時に、一部から「ネカマー!」「B小町のパクり!」という心無い野次が飛ぶ。
——だが、その野次すらも、最初のフレーズで完全に掻き消された。
**「——偽物だと笑えばいい。この身を刺す視線こそ、私を穿つ光!」**
センターに躍り出た私の歌声が、マイクを通して会場全体を振るわせる。
ボイトレで極限まで鍛え上げた、女性らしくも芯の通った、どこか妖艶で力強いハイノーツ。
《うそ……歌、うますぎだろ……!?》
《マジで元男なのか……?》
客席の空気が一瞬で「冷やかし」から「圧倒」へと変わるのが肌で分かった。
畳みかけるように、左から宵闇灯が躍り出る。
読者モデルで培った圧倒的なビジュアルとカリスマ性。クールな表情から繰り出されるキレ味抜群のダンスが、ティーンの観客の目を釘付けにする。
「媚びない、折れない、引き下がらない! 宵闇の街で私を刻め!」
続いて右から、向井沙也加が弾けるような笑顔でフロントへ。
アイドルオタクとして「ファンが求める完璧なレスと立ち振る舞い」を研究し尽くした彼女の動きは、一切の隙がない。絶世の美貌から放たれる圧倒的アイドルオーラ。
「愛して、焦がれて、狂い咲け! 完璧な夢をあなたにあげる!」
三人それぞれの個性が衝突し、火花を散らす。
単なる「B小町の劣化コピー」などではない。バラバラな天才たちが、冴子の狂気的な楽曲の上で最高密度の化学反応を起こしていた。
そして、曲はサビ前の静寂へと突入する。
照明が落ち、一筋の赤いスポットライトが、私——榊美裕だけを照らし出した。
会場が息を飲む。
(見てる……? 画面の向こうのアンチも、私を笑った奴らも、そして……あの日納得いかなかった前世の私も!)
私は自分の喉を掻き切るような激しい素振りと共に、身体を反らせ、狂おしいほどの即興ダンスを叩きつけた。男だった過去、性別の葛藤、吐き捨てるような悪意、そしてアイドルとして生きたいという泥臭い執念——
そのすべてを、爪の先、髪の毛の一本一本にまで乗せて舞う。
「——生まれ変わったこの身体で! 私があなたの『真実』になる!!」
**ドカンッ!!**
サビの爆発とともに、特効の銀テープが弾け飛ぶ!
三人のシンクロした激しいパフォーマンスが爆ぜ、会場のボルテージは限界を超えてブチ上がった。
冷やかしに来たはずの客も、アンチスレッドを立てていた男たちも、全員がペンライトを激しく振り、喉が千切れるほどの歓声を張り上げていた。
「美裕ーーー!!!」
「C小町!! C小町!!!」
「ヤバすぎるだろこれ……!!」
地鳴りのような「C小町」コール。
ラストの決めポーズで息を荒げる私の視界に、客席の後方、関係者席の影が見えた。
そこには、腕を組んでニッと満足そうに笑う**星野アクア**と、目を輝かせて激しく拍手を送る**星野ルビー**の姿があった。
ステージのライトが眩しく照らす。
汗が目に入って沁みるけれど、私は最高の笑顔を浮かべていた。
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#【推しの子】
#SAKAMOTODAYS
おとうふ 紹介文読んで🙇
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りな
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叩かれたっていい。
炎上したっていい。
このステージの上にある熱量だけは、紛れもない「本物」だ。
あの日、交通事故で倒れ、納得いかない結末に悔し涙を流した男・榊博己はもういない。
今、この場所で世界を魅了しているのは——C小町のセンター、**榊美裕**だ。
私たちの伝説が、今、ここから世界へ向けて産声を上げた。
コメント
1件
**おおー、第6話、めっちゃ熱かったわ…!** ライブ本番の描写が細かくて、臨場感がすごかった。美裕の「生まれ変わったこの身体で!」って叫び、ゾクッとした。アンチの野次をパフォーマンスで黙らせる展開、単純に燃える。歌声やダンスで「本物」を証明する姿、主人公の執念がビシビシ伝わってきた。アクアとルビーが客席で見てるのもニヤリとした。次も楽しみにしてる🔥