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10話 26934スポット【富山】都会と田舎のまんなか
視界が開けた。
高い建物がない。
空が広く、
遠くまで線が続いている。
山の輪郭。
その向こうに、
水面が光る。
リカは、
足を止める。
長めの上着。
袖は手の甲まで。
腰元で、
電子マネーのキーホルダーが
揺れて音を立てる。
「広いね」
隣で、
おかあさんが頷く。
肩までの髪をまとめ、
歩きやすい靴。
荷物は少なく、
動きに迷いがない。
山江マンションは、
背が低い。
階段も短く、
三階までが近い。
部屋に入ると、
窓が多い。
開けると、
風が通る。
向こうに、
川が見える。
その横に、
並ぶ木々。
時期が違えば、
景色も変わるのだと、
すぐにわかる。
箱は少ない。
昨日、
近所の人たちも
同じように
引っ越しを終えたらしい。
廊下ですれ違う人が、
軽く会釈をする。
午後。
川沿いを歩く。
舗装はきれいで、
足に負担が少ない。
リカは、
歩幅を合わせる。
団地よりも、
ずっと広いのに、
距離は長く感じない。
水の音。
遠くの声。
風が葉を動かす。
おかあさんは、
立ち止まる。
「見て」
指差す先に、
公園がある。
遊具は少なく、
自然が多い。
「ここ、いいわね」
その言葉は、
確認じゃない。
決めた人の声。
リカは、
何も返さない。
代わりに、
キーホルダーを握る。
129とは、
違う感触。
でも、
嫌じゃない。
「引っ越して、
よかったわね」
おかあさんは、
前を向いたまま言う。
川は、
そのまま流れている。
リカは、
歩きながら思う。
ここは、
都会でもなく、
昔の場所でもない。
その間に、
ちゃんと立っている。
夕方、
部屋に戻る。
窓から、
同じ山が見える。
四次元装置を触る。
番号は、
もう変わっている。
迷いは、
今はない。
今日は、
ここで終わる。
それだけで、
十分だった。