「綺麗……」
光の花。そんな表現がまさしくあっている、みたいな、光の粒子がそこら中に飛び交っていた。蛍の光とも星の光とも違う温かな、花びらみたいな光。触れるとすぐに消えてしまって、手には残らないけれど、かすかに誰かの魔力を感じた。それも複数人だったKら、演出の一つとして、この光の花びらを舞わせているんだろうな、と私は考える。
それにしても綺麗で、幻想的な光景だった。
「こんなもので感動できるなんて、ある意味才能ですね」
「そう言うアンタもこんな些細な事でも、毒をはけるなんて才能ね」
「……」
「仕返ししただけよ。でも、事実でしょ?」
こんな時まで毒を吐いてくるので、私も毒を履き替えしてやろうと口にすれば、図星だったのか、彼女は憎らしそうに顔を歪めていた。いつもやられっぱなしだから、今日くらいはト思ったが、成功したらしい。まさか私が反論してくるとは思っていなかったんじゃないだろうか。どっちにしても、私にダメージが入っていないという抑制というか、まけないという意思を伝えられたんじゃないかと思う。その後は、エルは黙ってしまった。
私は、手すりギリギリまで身体を乗り出させリースの姿を探した。ここは、別館なのか、それとも皇宮の一室なのかは分からなかったけれど、斜め右にリースの姿が見えた。私があの黄金を見つけられないはずがなかった。
(あんなに輝いていたら何処にいても見つけられるよ……)
だって推し。そして、私の好きな人。
いつもと似ているけれど、基本白で固められたタキシードに、真っ白なマント、内側はルビー色。髪も、いつも以上に輝いていて、パーティクルがとんでいるようだった。瞳も何処にいても輝いて見える。けれど、こっちからは見えても、リースからは見えないんだろうな、と私はガッカリ半分、見つからなくてよかったかも、半分……みたいな気持ちでいた。彼は、今外に向ける顔をしていたから。それを崩してはいけないと思った。彼も彼で、気持ちに整理をつけてあの場にいるのだろうから。
そうして、私はリースの少し後ろに控えていた、トワイライトを見つけた。蜂蜜色の髪は高く結われて編み込まれており、真っ白な瞳は光の花びらを反射して七色に輝いていた。ウエディングドレスもとても似合っている。彼女の為に作られたような、オレンジの花の装飾やフリルも最高だった。
いつかゲームで見たエンディング。
間抜けな感想を言うなら、あれは実在したんだ。
そして、言葉を失うほど感動し、本当に語彙力が飛んで行ってしまった感想を言うなら、お似合い、だった。
(私じゃ、勝ち目ないよ……)
悪役として設定されているエトワールが、本物のヒロイン、トワイライトに勝てるはず何てなかった。きっと作者や絵師も、二人を並べたときの色合とか、映える感じとか考えていたんだろう。じゃなきゃ、こんなに幸福感のある絵図は見えないと思うから。でも、彼らは動いている。実在する、美なのだ。
「……」
「諦めがつきましたか。エトワール様」
「…………綺麗だよね。ほんと、叶わないかも」
本音。エルにも聞えるくらいの声だったかも知れない。エルは何も言わなかったけど、ざまあみろ、と思っていたかも知れない。どう思われてもいいけれど私は、一人絶望と幸福感を得て彼女たちの笑顔をずっと眺めていた。幸せそうに笑う。私なんてそこにいなかったように。
私がいない方が、やっぱり幸せなんじゃと思うくらいに、彼らは祝福を贈る国民に向かって手を振っていた。未来の皇帝、皇妃。
悪役は指をくわえてみているだけ。これが本来のルートだから。何も間違っていない。
だから、泣くのは間違っている。
「泣いているんですか。みっともない。祝福しようという気持ちはないんですか。嫉妬に飲まれて、泣いている?本当に、悪事だけは働かないでくださいね」
「……お似合い好きるんだもん。私じゃやっぱり、ダメなのかな」
「悪女が幸せになれるわけないんですよ。でも、なりたいと思うのは、理解できる……」
その後、エルは何かを呟いたようだったが、私には聞き取れなかった。それよりも私は、輝いている今日の主役である彼らを見つめることしか出来なかった。目に焼付ける。今日しか見えない光景だから。目に焼付けてやるって。
乾燥してきてか、感動してか、それとも悲しみからか、私の目から涙が零れ、頬を伝ってそれが流れていく。泣いちゃダメ、エルが言ったように祝福してあげないと、という気持ちも勿論あったけど、流れだした涙が止るはずなかった。
(あれ、何で私泣いているの?ダメじゃん、これじゃ……)
嫉妬する醜い女っていうのも当てはまっている気がして、私はエルの言葉通りの人間になっているのかも知れないと思った。
ゲームで何度も見たシーン。私の大好きなハッピーエンド。そして、それを見るたび号泣していた。だって、ヒロインとリースの絵が素敵過ぎたから。何度も、絵師様ありがとうございます。制作に関わって下さった方全てに感謝。なんて言っていたほど大好きなシーンだったから。それを目の前で見られて、実物で見られて感動していないわけじゃないし、感動している。本気で感動して涙が出た、というのもある意味あっていたのかも知れない。でも、きっとこれはそんな涙じゃない。
これまで少女に見えたトワイライトは、一人前の女性に成長し、幼さなど感じさせなかった。美しい女性。リースの隣に立ってもまけないような、そんな強く美しい女性になっていた。私とあわない間に何かあったのかと思うくらい、彼女は綺麗だった。
(トワイライト、成長したのね……)
彼女と話せなくなって何日経っただろうか。本当の妹だと分かってから、彼女へどうせッすればいいか考えたときもあった。でも、これまでの時間を埋めたくて、私は彼女に優しくした。見返りを求めていたわけじゃない。本当にただ、妹がいるって言うのが嬉しくて、姉として彼女に接してあげたいとそう思ったから。
でも、リースもトワイライトも遠い存在になってしまって悲しかった。私の入る隙間すらないほどに、彼らは彼らの道を進んで言っていると、そう感じる。
「エトワール様、そろそろ行きましょう。見つかったら大変です」
「アンタが連れてきたんじゃない。もう少しこうして見ていたいんだけど」
「あの式典とパレードには貴方は呼ばれていないので、見つかったら何を言われるか。私の立場を考えて下さい」
「でも、見せてくれたってことは、私に少し気があるって事?」
「あるわけないじゃないですか。本当に貴方の頭は可笑しい」
と、エルに一蹴りされてしまう。彼女がここに連れてきてくれたのは気まぐれか。口ではああ言ったけど、本当は優しいこなんじゃないかとか思ってしまう。でも、人は見かけによらないし、信じられるのは自分だけだけど。
私は、エルが先にいって歩くので、その後を追いかけるように方向を変えた。でも、最後に彼らの姿をもう一度見たくて、振返る。あの大勢の中には、ルクスとか、ルフレとか、後はブライトとか、グランツもいるのだろうか。グランツは今は、トワイライトの護衛だし、かなりいい立場にいるのでは無いか。アルバも同じことが言えるんだけど。でもさすがに、そんな人たちまで探すことは出来なくて、私はもういいかと下を向く。それから、暫くして顔を上げれば、遠くだったのに、あのルビーの瞳と目が合った気がしたのだ。
「嘘……」
そんなわけない。だって、どれだけ離れていると思っているんだ、と私は首を振る。エルに早くして下さい、何て急かされているけど、その場から動くことが出来なかった。手を振ってもいいだろうか。彼に、ここにいるよ、おめでとうっていっても良いだろうか。そう思ったけれど、私にはそんな勇気なかった。認めてしまいたくないって思っている自分がいたから。
けれど、私とは違って、リースは、私に向かって手を振った。きっと、会場にいる人達は自分の方向に手を振られたんだろうと思っているだろう。それくらい見なきゃ分からない微妙な目の方向だったのだ。ルビーの瞳は私とばっちりと目が合っていた。絶対に思い違いなんかじゃない。
「何それ……」
笑っていた。少し悲しそうに。でも割り切って、自分はこの帝国を背負っていくという決意の表れを顔に浮べていた。リースも、何だか遠い存在になってしまったな、と私は彼に手を振り返すことなく、エルの背中をおって光のない方向へ歩き出した。
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