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指定された店に到着した恵菜は、店内をぐるりと見回した。
一番奥の座席に、高校時代と容姿が変わらない女性が、コーヒーを飲みながらスマートフォンを触っているのが見えた。
彼女に会ったのは約二年半前、野球部のメンツ数人と理穂が自宅に遊びに来て以来。
色白の柔肌に、デコルテに掛かる長さの明るいブラウンの艶やかな髪、クリッと大きな瞳と長い睫毛は、芸能人やモデルを思わせる。
高校時代と違うのは、勇人と関係を持ち続けているせいなのか、大人の色気を放っている事。
恵菜は、腹を括るように、短く息を吐き切ると、真っ直ぐに理穂のいる席へ足を向けた。
スマートフォンを触るのに夢中になっている理穂は、目の前の恵菜に気付いていない。
(自分から呼び出しておいて、意味不明なんだけど……)
まだ顔を上げようとしない理穂に、恵菜は態(わざ)とらしく声のトーンを低くさせた。
「汐田さん、お久しぶり」
恵菜の声で我に返ったのか、理穂が素早く顔を上げる。
音が聞こえそうなほど、睫毛をバサバサとさせて瞬きをした後、瞠目させた。
「……え? 恵菜センパイ…………? ウソ…………ブタじゃない……」
最後のひと言に、理穂は彼女に聞こえないように、ボソッと呟いたつもりだったのかもしれないけど、恵菜にはしっかり聞こえている。
(彼女に会うのは二年半振りだけど……勇人が私の事を陰でブタ呼ばわりしてたせいか、コロコロに太った私を想像してたのかな。失礼極まりないけど……)
「まるまると太ったブタが来ると思ってた?」
恵菜は悪態を付け加えながら腰を下ろすと、店員が注文を取りに来たので、ホットコーヒーを注文した。
「それで、私に話があるって言ってたけど、何?」
目の前の理穂は、離婚してからスマートになって綺麗になった恵菜を、戸惑った面差しでマジマジと見つめている。
「恵菜センパイ…………ずいぶん痩せたんですね……。勇人センパイのために……ダイエットしたとか……?」
「早瀬と結婚してた頃は、全然痩せなかったよ。あなたと早瀬が不倫してた事、それに、義母から痩せろって言われ続けたのがプレッシャーになったのか、一時期、食事が全くと言っていいほど摂れなくて、半月で十キロ落ちて、離婚の話し合いが全然進まなくて、更に十キロ痩せたんだけどね」
まぁ、健康的な痩せ方ではないよ、と皮肉も忘れない恵菜。
理穂は、まさか勇人との関係が恵菜に気付かれていないと思ったのか、彼女の言葉を聞いて、忙しなく瞳をパチパチさせた。
「えっ…………恵菜センパイ……しっ…………知ってたんですか…………!?」
「だって、早瀬が野球部の飲み会の後に帰宅した時、毎回、女性用の香水の残り香を匂わせていたもの。野球部の飲み会で、女性が参加するとしたら、マネージャーだった汐田さんしかいないでしょ?」
元夫の不倫相手を目の前にして、恵菜は、怒りをぶつけたい気持ちでいっぱいだったけど、敢えて冷静を装い続けた。