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先程、私がオスカーを拒絶した事もあり気不味い。
「オスカー・アベラルド皇子殿下と、シェリル・ヘッドリー侯爵令嬢が入場します」
戸惑いながらも慣例に従いオスカーの手を取り入場する。
一斉に貴族たちの注目が集まると、始まるオーケストラの荘厳な演奏。
私とオスカーは舞踏会の始まりのダンスをする。
私はモヤモヤした気持ちのままオスカーと踊り始めた。
「シェリル、先程は⋯⋯」
オスカーが私から目を逸す。彼は何を話し始めるつもりなんだろう。私を咎める言葉?
「私が欲しい? 正直、耳を疑ったわ。私も貴族令嬢としてのプライドはあるのよ。自分の不安? そんな身勝手な気持ちを満たす為に私の尊厳を踏み躙るつもり?」
生まれて初めてオスカーを責めるような言葉を発した。彼と私が生きる為に必死に立ち回ってるのに、彼は情欲に支配されている。年頃の男の子だから仕方がないと回帰前の記憶がない私なら受け止められた。
「そんなつもりはないよ。僕はただ君が好きなだけ」
オスカーが揺れる瞳で呟いたところでオーケストラの演奏が終わる。
ふと背中から視線を感じる。鮮やかなグリーンの礼服に身を包んだフレデリック。彼とは舞踏会で踊る約束をしていた。
二曲目の演奏をしようと指揮者が腕を振り上げる。
(あぁ、行かなきゃ)
「シェリル」
当たり前のように二曲目を踊ろうと手を差し伸べるオスカー。
私はその手に気が付かないフリをしながら、フレデリックに近付いた。
わざわざ遠路はるばる来て、私との約束を守ってくれた彼。私も彼と踊る約束を当然守るべきだ。
フレデリックが私を目にするなり、跪く。
大帝国の皇太子が跪いた事に周囲が騒めいた。
「美しい人。私に貴方と踊る栄光を与えて頂けませんか」
「もちろんですわ。フレデリック」
私を尊重してくれた彼と約束通り私はダンスを踊った。
彼の瞳に合うグリーンの礼服。いつの間に着替えたのか知らないがよく似合う。二局目には珍しいムーディストな曲。私は彼に身を預けながら体を揺らした。
「その礼服も準備してたの? とても似合ってるわ」
「シェリル、君は最高だな。気高くて美しい」
惚けたような視線を向けてくる彼はそっと私に唇を寄せる。私は彼を軽薄に見せても真面目な人だと認識していた。それなのに、大衆の面前で軽率な行動をとってくるのが理解できずに顔を逸す。
「そういうおふざけは本当にやめて欲しい。オスカーがどう思うか⋯⋯」
「口付けを交わそうとした時に避けたのは私が嫌だった訳ではないという事だな。奔放で男慣れした見た目をしている癖に綱で繋がれているように頑なだ」
私は改めて自分のルックスを顧みる。派手な顔に大き過ぎる胸。今日のような格好をしたら、まるで下品な娼婦のようだ。フレデリックは本当に何を考えているか理解できない。出会った頃は男女の仲を欲するように私に迫ってきた彼だが、ここに来る道中は友人のようにカラッとした仲だった。何か企みがあって見せる自分を変えているのだとしたら、それは何なのだろう。
「シェリル?」
気がつくと私を心配そうにフレデリックが見つめている。
「ありがとう。フレデリック。私との約束を守ってくれたのね」
私の言葉の何が引っ掛かったのか彼は目を逸す。確かに彼は私との約束を守り対等な貿易交渉をしてくれた。
ダンスが終わるなり、フレデリックをアベラルド王国の有力貴族が囲む。こんな小国に帝国の皇太子が来る事は初めてだから当然かもしれない。
何を考えているかは分からないが、フレデリックは友人である私の相談に協力してくれた。
♢♢♢
年中温かいヘッドリー領地は二期作で稲を育て、他の領地もジャガイモなどを二毛作で育てる。国民の中に主食はパン以外でも構わないという意識ができ、食文化が多様になった。その上、ヘッドリー領地は王国の玄関口として観光地として発展し始めていた。温かい環境を生かし熱帯植物を植えて植物園を開いた。
様々な植物で作った花冠は特産品として高く売れた。領民の雇用率は格段にアップした。私は全てのことが上手くいくのはフレデリックの助けのお陰だと理解し、彼に依存していった。
そして、私は運命の日を迎えた。