その日の授業が終わると生徒達は一斉に片付けを始める。
綾も画材をバッグにしまっていると美愛がこう言った。
「綾、山内先生と一緒の電車に乗りたいから先に行くね、また明日!」
「うん、美愛また明日ね、頑張って!」
綾が手を振ると美愛はニコニコしながら教室を後にした。
綾も片付けを終えると教室を出る。
予備校のビルを出た瞬間、いつものように少し湿度を帯びた生暖かい空気が身体に纏わりつく。
しかしここ最近はその空気の中にほんの少し秋を感じさせる空気が混ざっているような気がした。
建物の脇にある植え込みからは虫の音が響いている。
夏の終わりは確実に近づいていた。
綾は駅へ向かって歩きながら高層ビルの隙間にある漆黒の夜空を見上げる。
いつもの癖で星を探したがビルの明かりに負けて星の輝きは見えない。
違う方向にかろうじて2粒の星を見つける事が出来た。あの星は何の星だろうか?
(星座早見表が手元にあればすぐわかるのに……)
綾はそう思いながら、スマホに以前から気になっていた星座アプリを入れようかと悩む。
その時、突然後ろから声がした。
「そこのビルの上に展望台があるの知ってる?」
その声には聞き覚えがあった。
まさかと思い綾が後ろを振り返ると蓮が立っている。
「一緒に行ってみる? もしかしたら流星群の名残りが観えるかもしれないよ」
「____はいっ」
気付くと綾は迷う事なく返事をしていた。
蓮と綾は目の前にそびえ立つビルを目指した。そしてエントランスから中へ入るとエレベーターへ向かう。
展望台は最上階にあるようだ。同じ階には洒落たイタリアンレストランや高級日本料理店もある。
8月の終わりの平日の夜、今から最上階に向かう人は誰もいないので、エレベーターの中には蓮と綾の二人だけだった。
そこで綾の心臓がまた音を立て始める。
トクン トクン
その時蓮が言った。
「吉野さんって恥ずかしがり屋だよね」
そして蓮は綾の頭をポンポンと撫でる。
頭を撫でられた綾の顔は真っ赤に紅潮していた。
(お願い…早く着いて……お願いだから早く!)
綾はエレベーターが最上階に着くのを必死に祈る。
そんな綾の様子を見て、蓮は静かに微笑んでいた。
そしてエレベーターが最上階に到着すると蓮が先に出る。綾はその後に続いた。
エレベーターを出ると目の前にホールがありその奥に飲食店の入口があった。
蓮はそこを左へ進んで行く。するとその先には小さな展望スペースがあった。展望スペースは一面ガラス張りだった。
その展望スペースには先客がいた。20代後半くらいのカップルだ。
食事をした後にここへ立ち寄ったのだろうか?
蓮と綾はカップルとは反対側の窓の近くへ行った。ガラス窓の向こうには摩天楼のよう夜景が広がっている。
その煌びやかな美しさに思わず綾は息を呑む。
「最近火球クラスの流星が多いから、大きいのが流れるといいけれど……」
蓮はそう言って夜空を見上げる。その横で綾も空を見上げた。
二人は10分ほど夜空を見つめ続ける。しかし特に変化はなかった。
(やっぱりもう観えないのかな?)
綾が諦めかけてたその時、シュッと一筋の光跡が夜空を過った。
「わっ!」
綾は思わず叫ぶ。
流星は綺麗な流線形を描いた後あっという間に雲間に隠れてしまう。
しかし星が消える瞬間、一瞬煙のような物が見えたような気がした。
「えっ? あのモヤモヤしたのは何?」
「流星痕だよ。星の成分の残骸が消える瞬間煙のように見えるんだ」
綾は蓮がそのモヤモヤの正体を知っていた事に驚く。
自分が知らなかった事を知っている蓮の事がすごく大人に見えた。
そして綾はそんな蓮の事を益々好きになる自分に気付く。
その時、反対側にいたカップルがこちらに移動してきた。
綾が流れ星を観て声を上げたのに気付き、こちら側で観察しようと思ったのだろう。
四人は根気よく15分ほど夜空を眺め続けた。すると次の瞬間立て続けに3つの星が夜空を流れた。
もちろん今度はカップルも観たようだ。星が流れた瞬間四人から歓声が上がる。
「一つ流れると続けて流れる事も多いよね」
「うん」
綾は大きく頷きながら夜空を眺め続けた。
その後綾はもう一つ流れ星を確認出来た。
綾はその夜、計5つの流れ星を観る事が出来た。
コメント
12件
なんだか,ロマンチックだわ🌌🌌🌌
いいわ〰️ 講師と生徒こちらもキュン🫰
お互い想い合っているのは間違い無さそうですが💖 綾ちゃんを流星観測に誘う蓮さんと、蓮さんが近づくと恥ずかしがる綾ちゃん....ゆっくり接近中の二人を ドキドキ キュンキュンしながら見守りたいと思います🌠✨