テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第2話「海藻ごはん、食べられない」
登場人物:ミル=トセリ(熱属性・草食系・1年)
ミル=トセリは、海藻を残した。
3日連続、潮属寮の食堂に顔を出しては、緑色の皿を前に固まっている。
彼の髪は焦げたような赤茶で、後頭部だけ波打つように跳ねている。
肌は日焼けした砂のように濃く、制服の胸元は熱属性の赤い三本線。
でも目元だけは、いつも眠たそうに濁っていた。
ソルソ社会では、食事と感情が密接に結びついている。
ミルは草食系だから、本来は「海藻食」が基本。
栄養バランスも、共鳴波も、感情安定も、すべては海藻由来の波に最適化されている。
だけど最近、海藻を噛んだ瞬間に「海の音」が耳の奥でねじれる。
波が逆流するみたいに、体がざわつく。
それが怖くて、ミルは食べるのをやめた。
「食べられないって、ただの変質の前兆でしょ?」
そう言ったのは、同じ熱属性で波属のナギ。
強い波をまとっていて、食べた直後は発光するほどの活性タイプ。
「お前、変わる準備できてんじゃん。ラッキーじゃね?」
「……ラッキーとか、ないから」
「なんで?だって“変質”って、進化だろ」
ミルは言い返さなかった。
変質が進化? そうかもしれない。でも、それって**“誰かが決めた波”に近づくだけじゃないか?**
数日後、彼はこっそり潮食堂の裏口に向かった。
理由はわからないけど、“違う匂いがする”日だった。
出迎えたのは、やさしい顔立ちの調理スタッフ──ククラ=モイ先生だった。
むっちりとした肌に、海藻柄のエプロン。
背中には感情によって色の変わる“潮殻”があり、今日は淡い金色をしていた。
「海藻が、食べられないのね」
ミルは、驚かなかった。なんとなく、バレてる気がしてた。
「……ソルソの波が、変な方向に回る」
「いいのよ。波なんて、毎日変わるもの。
だって、感情って海みたいでしょ?」
その日の昼、特別に出されたのは、“火の海藻スープ”。
海藻を焼き、干してから、わずかに熱属性の貝殻出汁で溶かしたもの。
見た目は地味。でも、飲むと体の奥があたたかくなった。
「これは、焦がした波。あなたの今の波に、似てるから」
食べ終えたあと、ミルはほんの少しだけ、手帳を開いた。
そこに記された「今日の波」は、線が揺れていたけれど、
それでも確かに、“彼のもの”だった。
変わることは、進むことじゃなくてもいい。
ただ、「食べられなかったものが、食べられるようになる」
それだけでも、きっと、十分な“変質”だ。