テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第3話「共鳴失敗レシピ」★
登場人物:コモリ(波属性)× クーナ(濁属性)/料理部ペア
コモリ=エイナの髪は波打つ青灰色で、左耳の下に魚のヒレのような“音弦膜”がついていた。
細身で長い指は、包丁よりもフライ返しをよく使う。制服は波属性仕様のダークインディゴ。
彼の足取りはいつも静かで、しゃべる声は水泡みたいに軽い。
「……また、分離したね」
料理部室のテーブルの上には、味がまとまらなかったスープがあった。
上澄みに塩素(ソルソ)の波が浮き、具材がそれぞれ“共鳴”していない。
その隣で、クーナ=ロゼルがふうっとため息を吐いた。
白く広がる髪には、濁属性の証である“記憶苔”が絡んでいる。
瞳はくすんだ灰茶色で、制服は濁属性のグレーに、補強された袖口が印象的。
ぼそぼそとした喋り方の彼女は、過去のレシピばかりを見返していた。
海食祭・共鳴コース部門の予選日まであと3日。
2人は波属性と濁属性という“相性が悪い”ペアとして組まされた。
料理部では、ソルソの波と味覚の共鳴を通して感情を伝える。
コモリは「食べた瞬間に“今”の気持ちが伝わる料理」を作るのが得意。
一方クーナは、「過去の記憶を味に沈める」ことに長けている。
──そりゃ、混ざらないよね。波の向きが、ちがうんだもん。
「過去が重すぎると、今が薄くなるよ」
コモリが言った。
「“今”だけじゃ、揺れるだけで、残らないじゃない」
クーナが返した。
その日、2人のスープはまた分離した。
帰り際、コモリはこっそり、自分の波域手帳を開いた。
そこには“今日の波:弱め、ぶつかりなし”とあった。
「ぶつかっても、いいと思うんだけどな……波なんだからさ」
翌日。
クーナが提出したレシピ案には、手書きで「共鳴失敗レシピ集(仮)」とあった。
その中に、“味が濁ってしまったスープ”や、“甘くなりすぎた貝煮込み”の記録が残されていた。
そしてその最後に、彼女は一行だけ追記していた。
「この人となら、失敗してもいいかもしれない」
予選当日。
2人が作ったのは、はじめてのレシピだった。
材料の波がぶつかって、少しにごった。
味も、何かが残った。
でも、審査員が口にした瞬間、ほんの少しだけ、昔のことを思い出して笑った。
失敗から生まれる味は、変質じゃない。
でも、それが個性になることもある。