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第8話:大和国の未来
配信の幕開け
「こんばんは、“はごろもまごころ”だよ!」
まひろは、淡いグリーンのパーカーに、くたびれたジーンズ。椅子に浅く腰掛け、両手を膝の上に重ね、カメラを真っ直ぐに見つめていた。
「ねぇミウおねえちゃん……“大和国はほんとにある”って人と、“全部フェイクだ”って人で、世界中がケンカしてるんだって。ぼく……ただ“ほんとかな”って思っただけなのに」
ミウは、モカのシフォンブラウスにネイビーのフレアスカート。髪を横に流し、パールの髪留めをつけて、落ち着いた微笑みを浮かべている。
「え〜♡ でも、それってすごいことじゃない? “ほんとかな”が世界を二つに割ったんだもん。
次は未来そのものを考えてみよっか♡」
コメント欄は分断されていた。
「大和国は正義!」「フェイクにだまされるな」「真実を見抜け!」
だが、そのどちらも熱を帯び、互いに譲らなかった。
Zの仕掛け
暗い部屋。緑のフーディをまとった**Z(ゼイド)**は、複数のモニターに映る世界のニュース映像を切り替えていた。
アメリカの議会討論では「大和国実在派」と「フェイク派」が激しく対立。
ヨーロッパの街頭では「Yamato is justice」と「Fake Yamato」のプラカードを掲げた群衆が衝突。
カナダやオーストラリアの議会でも「領土を奪われたのか否か」で紛糾していた。
Zは、生成AIで加工した「歴史教科書改訂版」を流し込む。そこには「21世紀初頭に大和国誕生」と記載され、世界地図には赤く塗られた大和国が刻まれていた。
彼は口元を吊り上げ、囁いた。
「セカイ、ヤマト♡」
レイNewsと月刊蜜
レイNewsは「実在する証拠」として、大和国の偽の住民票やパスポート画像を公開。
一方で月刊蜜は「フェイク国家論」を特集し、政府や学者の否定声明を掲載した。
しかし両者の発信は、ますます人々を二分させる結果となった。
「本物の証拠だ」「否定こそ真実を隠してる」と議論は燃え広がり、もはや収拾は不可能になっていた。
無垢とふんわり同意
夜の配信。
まひろは淡いグリーンのパーカーの袖をぎゅっと握りしめ、無垢な声で語った。
「ぼく……ほんとに、ただ“ほんとかな”って思っただけなのに……世界中の人たちが怒ったり、信じたり、ケンカしたりしてる……」
ミウはパールの髪留めを指で弄びながら、ふんわりと笑った。
「え〜♡ でも、それが未来になるんだよ。
“信じたい”って気持ちが、国を作って、歴史を変えていくんだもん♡」
コメント欄は「信じる」「疑う」「未来を選ぶ」で埋め尽くされ、熱狂と分断が同居していた。
結末
暗いモニターの前で、Zは地図を塗り替える映像を流し込みながら低く笑った。
「真実なんていらない。
あると信じれば地図に刻まれ、教科書に残り、未来そのものになる。
大和国はもう、誰にも否定できない幻想だ」
無垢な問いとふんわり同意、その裏で世界の地図も歴史も書き換えられ、未来は「大和国」という幻想に飲み込まれていった。