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#勧善懲悪
#勧善懲悪
翌日の午後、空は低い雲に覆われていた。
箱庭座の周りには、招待客らしい車が少しずつ集まり始める。表向きは再開発の記念上演。けれど中身が何であるかを、サペたちはもう知っていた。
公民館の空き部屋では、最後の確認が進む。
リボルは出入口を三つに分け、誰がどこを押さえるかを告げた。
「正面は俺とピットマン。搬入口はスレンとンドレス。資料の受け渡しはマイナとジュレイ」
オスバルダスは町内会の面々を前に立たせる。
「騒ぎになっても、客同士を煽らない。転びそうな年寄りを先に出す。怒鳴るより先に、通路を空ける」
その言い方があまりに慣れていて、ズジが苦笑する。
「避難訓練みたい」
「だいたい同じだ」
オスバルダスは平然としている。
「人間は慌てると、同じように狭いところへ詰まる」
ルドヴィナは湯気の立つやかんを持って現れ、一人ずつへ紙コップを押しつけた。
「はい。飲んで」
「緊張してるように見える?」
キオノフが笑う。
「見える」
「じゃあ仕方ない」
「仕方なくない。飲んで」
いつもの不機嫌そうな言い方なのに、手元だけは丁寧だった。
キオノフは受け取って、小さく礼を言う。そのやり取りを見て、部屋の隅でローレリーズがふっと笑う。
「勝ったあとの焼き菓子、もう焼いてあるから」
誰にともなく言う。
「負けると湿気るから、なるべく早く勝ちなさい」
一瞬、静まり返った部屋に笑いが広がった。
サペはその笑いを聞きながら、白い札の束を見ていた。
黒い名刺の代わりに、いつか使うつもりで作り始めていた、まだ何も書いていない小さな札だ。
今日が終われば、これに別の言葉を書けるかもしれない。
エリアが隣へ来る。
「怖い?」
「怖い」
サペは正直に言った。
「でも、ひとりじゃないから、前よりましだ」
エリアは頷いた。
「それで十分」
持ち場は違う。
できることも違う。
けれど、その全部が今夜は同じ方角を向いている。
黒い舞台幕の向こうで始まるものへ、町の側もまた、自分たちのやり方で開演の準備を終えていた。
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