TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

鎖の旋律

一覧ページ

「鎖の旋律」のメインビジュアル

鎖の旋律

17 - 第17話 別れの演奏

♥

47

2025年10月07日

シェアするシェアする
報告する

ステージの照明が落ち、客席のざわめきが遠くなる。

翔はピアノの前に座り、譜面を開く。昴の曲だ。


――この旋律に、二人だけの時間、愛、痛み、全てが刻まれている。


指先が鍵盤に触れる。冷たく、しかし確かな温もりを持った音が空間に広がる。

一音、一音に昴との日々が滲み出す。深夜の練習室、壊れた鍵盤、凍った指先。翔は思い出のすべてを、音に変えて弾き込む。


客席のざわめきは次第に消え、息を呑む静寂が舞台を包む。

音はまるで二人の心の会話だ。怒りと依存、恐怖と愛情が混ざり合い、重く、切なく、しかし美しい旋律となって響く。


翔は譜面から目を離し、鍵盤だけを見つめた。


――昴はここにいない。だが、存在感は強く、指先に影を落とす。

彼の音が、体の奥で共鳴し、心臓の鼓動と同調する。


途中、翔の指先が一瞬止まる。胸が熱く、喉が詰まる。

観客の眼差しも、ステージの光も、何もかもが遠くなる。

ただ、昴の旋律だけが、二人を繋ぐ鎖のように絡みついている。


――これが、最後の演奏。


翔は涙をこらえ、痛みも孤独も音に変えて弾き続ける。

音は鋭くも柔らかく、重くも軽やかに、昴の存在を映し出す。


演奏の終盤、翔は全身で鍵盤を抱え込み、力の限りを叩き込む。

客席には静寂と感嘆の波が広がる。

誰も、音に込められた愛と痛みのすべてを理解できないだろう。だが、翔自身は確かに知っていた。


最後の和音が消えた瞬間、翔は深く息をつき、肩を震わせる。

ステージの照明が落ち、観客からの拍手が洪水のように押し寄せる。

だが、翔にとって重要なのは、その音ではなかった。


楽屋に戻った瞬間、全身から力が抜け、椅子に倒れ込む。

涙が頬を伝い、指先の震えが止まらない。


――愛と依存、痛みと喜びが、音と共にすべて吐き出された瞬間だった。


昴は舞台の裏から微かに微笑む。声はかけずとも、存在が翔を包む。


「……ありがとう」


翔の胸の奥で、無言の会話が交わされる。


深夜の静寂の中、二人の世界は音に溢れ、そして確かに分かたれた。

離れていても、旋律は二人の心を繋ぐ鎖のように、柔らかくも強く残っている。


この作品はいかがでしたか?

47

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚