テラーノベル
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舞台が終わった瞬間、世界が急に静かになった。
拍手の余韻がまだ耳に残る客席を離れ、翔は楽屋の暗がりに倒れ込む。
体の全てが重く、指先の震えも止まらない。息をするだけで精一杯だった。
誰もいない楽屋の空気は冷たく、沈黙だけが重くのしかかる。
翔は目を閉じ、胸の奥で燃えた旋律と、昴の存在を反芻する。
――あの曲に込めた愛と痛み、孤独と依存。
全てを弾き出した代償は、あまりにも大きかった。
気づくと、目の前に昴の姿があった。
長い夜、遠くで見守るように立っていた昴は、静かに息をつく。
「大丈夫か……翔」
声は低く、しかし柔らかく、疲れ切った体に優しく触れるようだった。
翔は微かに目を開ける。視界はぼやけ、体は鉛のように重い。
「……昴……」
声は掠れ、ほとんど囁きのように漏れた。
昴は椅子を引き、翔の隣に腰を下ろす。手を握り、指先に温もりを伝える。
「無理しすぎだ……お前の体も、心も、もう限界だ」
しかし、翔の瞳にはまだ怒りも拒絶もなく、ただ深い疲労と信頼が混ざっていた。
「……お前の音を、世界に響かせて……」
微かに震える声。翔の口から出た言葉は、疲労と痛みを抱えた切なる願いだった。
その言葉に、昴の胸は締め付けられる。喜びと痛み、愛情と依存が一瞬にして交錯した。
昴は静かに頷き、翔の手を握り直す。
「わかった……俺の音を、翔のために世界に届ける」
言葉は柔らかく、決意に満ちていた。
音楽のためだけでなく、二人の関係を守るための誓いでもあった。
白い光の中で、翔は微かに目を開ける。
痛みはあるが、心は安堵に包まれていた。
隣に昴の存在を感じ、胸の奥で旋律が静かに共鳴する。
――壊れかけた依存と愛が、音として、二人を繋ぎ続ける。
「……もう、怖くない……」
翔の囁きは小さいが、確かな希望を含んでいた。
昴はそっと頬に手を当て、微笑む。
「……俺が、ずっとそばにいる」
窓の外では、夜の空気が静かに揺れる。
演奏の熱狂は終わり、静寂だけが残る。
だが、二人の心の中では、旋律が止むことなく流れていた。
依存も愛も痛みも、すべてを抱えたまま。
昴と翔は、まだ世界の中で、互いの音を感じながら生きている。
そして、その音は、これからも二人を結び続ける――静かで、深い共鳴として。
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