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「あっ! 神官様ーっ! 探しましたよ!」
セージを呼びながら、一人の女性がこちらへ向かって走ってくる。
装いからして、教会のシスターさんだ。
「どうかされましたか?」
息を切らすシスターさんを気遣いながら、セージは事情を聞く。
「……た、大変です、神官様! 今すぐ教会に戻ってください!!」
「……何かあったんですか?」
「実は……」
俺たちに聞かれてはまずいのだろうか。シスターさんは俺たちに聞こえないよう、セージに耳打ちする。
普段温厚なセージが、聞き終えた頃にはどこか険しい顔になっていた。
「……わかりました、すぐに戻ります」
セージは俺たちへ向き直ると、申し訳なさそうな顔をする。
「すみません、急用が入ってしまって……すぐに教会へ戻らなくてはならなくなりました」
「いいよ、いいよ。教会関係なら仕方ないって。むしろ仕事ほっぽって、ここまで付き合ってくれありがとな」
セージがあまりにも申し訳なさそうな顔をするので、気にさせないようにそんなことを言えば。セージが「ヤヒロさん……」と、恩着を込めた瞳を向けてきた。俺はセージの純粋さに心を浄化された。そして同時に、その純粋さゆえに罪悪感でダメージをおった。
「それとね、ロキ……ロキはしばらくの間、教会の近くには来ない方がいいと思う……」
「……あぁ、そういう事か。わかった、しばらく近づかねーよ」
「ごめんね……」
歯切れの悪いセージに、俺は首を傾げる。だが当の本人たちは理解しているようだし、俺がズケズケと聞くのは良くない。何となくそう思った。
「それじゃあロキ、あとはよろしくね」
「わかったからさっさと行け」
セージは俺たちに一礼すると、シスターさんとともに足早に去っていく。
セージを見送ると、ロキがセージが去った方向とは逆方向を向く。
「んじゃ、行くか」
「『行く』って、どこにだよ?」
俺の質問に、ロキが親指を目的地に向けて指す。
「例のモン、そろそろできてる頃だろ?」
ロキのその言葉で、俺は全てを理解する。
「お、おう!」
「イオ〜、『例のモン』って〜?」
「おそらく、先日お願いしていたものだと思いますよ」
俺たち……いや俺は、ウキウキルンルンでロキの後をついて行くのだった。
▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁
ロキに案内され、俺たちは大通りへと出る。
魔獣騒動の復興作業をする男性たちと、それを陰ながら手伝う女性たちの声が響き渡る。
被害が少なかったり無事だった店や露店は少しずつ営業を再開し始め、最初に来た時の街の賑やかさは徐々に戻りつつあった。
「相変わらず賑やかだよなぁ」
「僕はもう少し静かでもいいと思うけどな……」
フードを深く被りながら、ロキは嫌そうに言う。だが俺は知ってるぞ。口ではそう言いながらも、お前はなんだかんだ言いながらも、この街を守ったんだ。このツンデレめ。
「おい、お前今変なこと考えただろ?」
不機嫌な顔で、ロキが俺を睨んでくる。俺は口笛を吹くふりをしながら、そっぽを向いて誤魔化すことにした。
「おっ、兄ちゃん! やっと腕が治ったのか?」
「あら〜、今日もみんな一緒で仲良しねぇ。お茶でも飲んでってよ」
「新鮮な果物が入ったんだよ。みんなでお食べ」
作業中の人たちや露店商の人たちが、俺たちに気づいて声をかける。
どうして他所から来た俺たちに、こんなにも声をかけてくれるのかと言うと。どうやら魔獣騒動を解決したのが俺たちだという噂が、どこからか流れたらしい。
実際、ロキとセージの力を借りて何とかなったのも事実である。犯人にされて袋叩きにされるよりは、素直に認めて受け入れてもらう方が得策だと考えたのだ。
「お陰様で、なんとか治ったっす。あ、すいません。今から行くとこがあるんであとで寄りますね。おっ、果物いいっすね〜。タダならもらいます」
そのおかげか、たった一週間で世間話や冗談を交えて会話できるまで打ち解けたのだった。
「いいよ、いいよ。兄ちゃんたちは男前だし、好きなだけタダで持ってきな!」
俺より二回りほど年が上そうな露店のお姐様は、豪快に笑いながらそう言って手招きする。
「お嬢ちゃんも。恥ずかしがったり、遠慮しないで好きなのを選びなね」
「あ、ありがとう……ござい、ま、す……」
妹は俺の後ろに隠れながら、形も色も様々な果物を見る。
「アプルの実を一つ」
「はいよ!」
ロキがそう言うと、お姐様はリンゴに似た果物を渡す。それは以前、セージが道案内のお礼と、ロキの機嫌取りついでに俺たちにも買ってくれた果物。そうか、この果物は『アプルの実』と言うのか。
「なぁ、ロキ。もしかしてそれ、お前の好物だったりする?」
「はぁ? だったらなんだよ……」
「ふーん……じゃあその『アプルの実』、俺も一つ!」
「わ、私も! 私もっ!」
「それでは私も一つ、お願いします」
「は……はぁ!?」
「はいよ!」
俺たちはお姐様から、アプルの実を紙袋で受け取る。うん、綺麗な赤色。香りもいいし、美味そうだ。
「あっはっはっ! 本当に仲良しだねぇ、アンタたち!」
お姐様にそう言われ、俺は「でしょ〜?」と返す。
「な、仲良くなんかねーよ!」
顔を真っ赤にしたロキに、俺と妹は『によによ』と笑顔を向ける。伊織はと言うと、邪な心など一切なくただ微笑んでいる。お前は本当にできた幼なじみだ。
いつまでも店の前に居座っていては邪魔なので、店主のお姐様にお礼を言ってから裏路地の入口へ行く。
「正直なところさ。やっぱ『ダチの好きなもんは共有したい』ってのが、俺の考えかなぁ〜」
「そうそう。美味しいものはみんなで一緒に食べるともっと、もっと美味しいもんね!」
「先日食べた時、とても美味しかったので」
「……っ、ばっかじゃねーの……」
そう言ってロキは、ただでさえ深く被っていたフードを、さらに深く被る。
「照れんなよぉ〜、ロキっつあん」
「照れないでよぉ〜、ロキロキ〜」
「照れないでください、ロキさん」
「照れてねーよ!!」
明らかに照れているロキを横目に、俺はアプルの実をかじる。
爽やかな香りと酸味、そして甘い果汁が口いっぱいに広がる。
「うん、やっぱ美味いな」
俺たちがアプルの実を堪能していると、どこからか悲鳴が聞こえた。あ