山荘の夕食時、優羽はいつものように宿泊客の食事の配膳を手伝っていた。
その時、今日、明日、明後日と三泊する予定の三十代半ばのカップルが、
帰り際に大町市の役所へ結婚届を提出するという事がわかった。
それを聞いた他の宿泊客達からは「おめでとう」の言葉が次々と飛び交い、その場が一気に祝福ムードに包まれる。
その流れで、明後日この山荘で結婚式をしようという話で盛り上がる。
他の宿泊客達も二人と同じ日程で山へ行く為、皆明後日この宿に帰って来る。
だから是非皆でお祝いしましょうという話でまとまった。
もちろんオーナーの山岸と紗子も乗り気で、是非山荘で式を挙げてくださいと二人に申し出る。
この山荘では過去にもそういった手作り結婚式を行なった事があるそうだ。
結婚する二人は、内田至と真中ひとみだった。
二人は登山が趣味で三年前にこの山荘で知り合った。
山という共通の趣味で一気に打ち解け、その後一緒に登山に行くようになり付き合い始める。
そしてこの旅の最中に結婚する事を決めた。
どうせなら思い出の地で入籍したいと思ったようだ。
二人の出逢いの場所である山荘で式を挙げられるなんてと、ひとみは感激している。
三橋はそんな二人のためにウエディングケーキを作ると張り切っていた。
式は夕食の時間帯に行われる事になり、三橋はいつもとは違う夕食にしようと張り切ってメニューを考えていた。
東京のホテルで働いていた三橋は、パーティーメニューにするようだ。
そんな皆の様子を見ながら、優羽も何かお手伝いを出来ないかと考えていた。
そして次の日、宿泊客達が山へ向かった後も優羽は色々と考えてみる。
しかし良い案が思い浮かばない。
その日の夜流星を寝かしつけた優羽は、フロントの事務作業を終えてからウッドデッキへ出た。
そして夜空を見上げる。
今日は満天の星空だ。
標高の高い山だとガスがかかりやすいと岳大が言っていたが、撮影はどうだったのだろうか?
そんな事をぼんやり考えていると、優羽の携帯が鳴った。
優羽がポケットから携帯を取り出すと、一通のメッセージが届いていた。
すぐにそのメッセージを開いてみる。
するとそこには満天の星空の写真が表示された。
「うわっ! 凄い…」
写真を見た瞬間優羽はびっくりして声を上げる。
それほど素晴らしい星空が写っていたのだ。
すると続けてまたメッセージが届いた。
岳大からだ。
優羽はそのメッセージをすぐに見る。
【最高の星空です。ほんの少しお裾分け】
メッセージにはそう書かれていた。
優羽はそのメッセージを見てフフッと笑う。
そしてすぐに返信した。
【写真ありがとうございます。すごく美しいです】
すると、そのメッセージはすぐに既読に変わりまた返事が来た。
【本命の写真はまだヒミツです】
おどけた調子でそう書いてある。
優羽はすぐに返信する。
【ずるいです。早く見たいです】
【慌てない慌てない。もしかして好きな食べ物は先に食べちゃうタイプですか?】
【はい。先に食べないと兄に取られてしまうので。佐伯さんは?】
【僕はじっくり寝かせて熟成させるタイプですよ】
それを見た優羽は、またフフッと笑った。
二人はそんな他愛もないやり取りをしばらく続けた後、優羽はこう返信した。
【明日の夜、急遽宿泊客の方がこの山荘で結婚式を挙げる事になりました。佐伯さんも出席できますか?】
しばらく間を置いてから返事が来た。
【もちろん。昼過ぎには戻りますから】
【私もお祝いの気持ちを込めて何かお二人にプレゼントをしたいのですが、何がいいのかわからなくて……】
優羽が岳大に相談すると、またしばらく間を置いてからこんな答えが返って来た。
【だったら花嫁さんを美しくして差し上げたらいかがですか?】
それを読んだ優羽は一瞬言葉を失う。まさかそんなアドバイスをされるとは夢にも思っていなかったからだ。
そして急に目が覚めたような気がした。
【素敵なヒントをありがとうございます。やってみます】
優羽は無意識にそんな返事を送っていた。
するとまた岳大から返事が来た。
【どんな小さな事でも大切に! そうすれば夢は勝手に向こうからやって来ます】
岳大の返事にはそう書いてあった。
それを見た優羽は、なぜか胸の奥から熱いものが溢れ出してくるように感じていた。
優羽は再び夜空を見上げると大きく深呼吸をする。
その瞬間、夏の湿った優しい風がそっと優羽の頬を撫でていった。
コメント
4件
岳大さんの言葉は、いつも温かくて前に進めるね(*´艸`*)✨ 優羽チャンは、アパレルの経験を活かして何かしてあげるのかな? 👰🤵💍✨
岳大さんとの間が少しずつ近付いてきてますね〜。会話のやり取りも自然で、下山してからの2人の距離感が楽しみです🩷 もちろん結婚式も!優羽ちゃんはどんな事をするのかな〜🎵
岳大さんのメッセージで優羽ちゃんが開眼✨優羽ちゃんにしかできないサプライズでとても盛り上がりそう〜🤭🌸👩❤️👨