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日下部の相談室2

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日下部の相談室2

42 - 第42話 誰かを羨むたびに、自分が嫌いになる

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2025年11月10日

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放課後。日下部のいる相談室には、時計の針の音だけが響いていた。

もうすぐ日が沈む。

窓の向こう、校庭を照らすオレンジの光が少しずつ薄れていく。


ドアが、そっと開いた。


「……日下部、今いい?」


入ってきたのは、クラスの女子だった。

笑ってるようで、笑ってない。

その曖昧な表情のまま、椅子に腰を下ろす。


「……誰かを羨むたびにさ、自分のこと、嫌いになるんだ」


日下部は、机の端に視線を落としたまま小さくうなずく。


「うん」


「友達が楽しそうにしてるの見ると、なんか苦しくて。

“自分もそうなりたい”って思うくせに、

“どうせ無理”って、すぐ心の中で否定してる。

その繰り返しが、もう疲れた」


彼女の指先が、無意識にスカートの裾をいじっていた。

静かな部屋の中で、細い息だけが重なっていく。


日下部は少し考えてから、口を開いた。


「羨ましいって、悪いことじゃないと思う」


「……でも、苦しいよ」


「うん。

けどそれって、“なりたい自分”を見つけたってことでもある。

本当にどうでもよかったら、羨ましくなんて思わないから」


彼女は少しだけ顔を上げた。

日下部の目は真っすぐで、静かだった。


「俺も昔、同じだった。

周りが楽しそうにしてるのを見るたびに、

“なんで自分は違うんだろう”って、心の奥で何回も思ってた。

でもさ、羨むってことは、“その人みたいに生きたい”っていうサインなんだよ。

それを見つけたなら、もう一歩分、前に進めてると思う」


「……そう思えたらいいけど」


「すぐには無理だろうな。

けど、“羨ましい”って感情を否定しなくてもいい。

それは劣等感じゃなくて、“希望の形を知った痛み”みたいなもんだから」


彼女の目がわずかに揺れた。

それでも、ほんの少しだけ光を取り戻したように見えた。


「……希望の形、か」


「うん。羨ましいって思う誰かがいるなら、それは生きてる証拠だよ」


外の空はもう紺色に変わり始めていた。

カーテンの隙間から差す光が、二人の影をゆっくりと伸ばす。


「……ありがとう」


その一言は、ほとんど息のように小さくて、でも確かに響いた。


日下部は少し照れくさそうに目をそらして、

「別に、俺もまだ途中だから」とだけ言った。


部屋の中に、静かな余韻が落ちた。

それはまるで、誰かの羨望と赦しが、少しだけ溶け合ったような時間だった。

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