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やがて深い森に入り、奥へ進み続けることしばらく。
そこには天を衝くような大樹が聳えていた。
自然の神秘とでもいうのか。この大樹からはとてつもない生命力を感じる。
その肌に触れたい。見たこともない太さの大樹。
ガサガサの浮いた樹皮の一欠片でさえもその大きさは自分の胴体ほどもある。
足元は大きな根があちこちに隆起しており、この鈍臭い身体では歩くのも一苦労だ。
上を見上げても広げた枝葉が視界を覆い尽くしている。
大樹に触れてみて、その偉大さに感嘆の溜め息が出てくる。
自身はこの偉大な生命とは対極に位置する存在なのだ。
少し、背を預けて休むことにした。この身体は疲れないが睡眠を求める。死ぬ前の名残か、あるいはもう寝ている時しか安らぎがないからなのか。
そして、僕はまた死んでいた。
辺りに散らばる血肉。目の前に迫るムチ。また死んだ。
目を開けると、そこには太い枝がムチの様に踊る光景があった。ムチの付け根は僕の背後の大樹だ。胴体が千切れた。
突き刺されたり、削られたり、両断されたりと、殺され続けた。
「死なないんだけど、痛いんだよ……」
植物に言葉など通じないだろう。それでも言いたくなる。
「せめてこの偉大な自然にだけは迎え入れて貰いたかったよ」
また頭が叩き潰される。
大樹の枝が千切れて降ってくる。
目玉を撃ち抜かれる。これはまだ死なない。だからこそ最高に痛い。身体中を貫かれて死んだ。
青い葉っぱが降り注ぐ。
根っこに締め上げられすり潰される。
かたい樹皮がボロボロに崩れてくる。
四肢を掴まれ千切られた。
巨大な枝がひと塊り落ちてくる。軽い災害だ。
目を覚ますときっちり殺される。意識を失った死んでいる時間がどれほどかは分からないが、永遠に続く様なその虐殺も終わりを迎えた。
大樹がその幹の半ばから裂けて崩れたのだ。
僕を殺せばそのものも死ぬ。あれほどに生命力に満ち溢れていたこの大樹にもその法則は成立したのだ。
そして、大樹がその命を落としたいま、僕の周りには獰猛な獣達が涎を垂らして唸っている。
僕はあと何回ここで死ぬ?
さすがに、なんだが自意識も怪しくなってきた……。