テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「まずは、転移ポータルへ行くぞ」
この世界を一番旅し慣れているサビィルが、二人と一匹に最初の目的地を伝えた。その態度は『案内役』と言うよりかは、梟だというのに『リーダー』っぽい。
“転移ポータル”は神々が残した古代遺産の一つで、無駄に広過ぎるこの世界の主要都市の付近には必ずある転移魔法ポイントだ。未開拓の地が圧倒的に多いこの世界では国家間の移動は主にこの遺跡を使用する。
巨大な六角柱の姿をしたそのポータルは古代文字が彫られた黒曜石で作られており、管理者から行き先を示す文字の描かれた“鍵”を受け取り、遺跡に触れれば目的地まで一瞬で飛ぶ事が出来る。“鍵”の保有者と紐などででも繋がっていれば、大量の荷物や馬車などとの同時移動も可能な優れものだ。
「神殿の側にも転移ポータルがあるんだ。神殿は特別な場所だからな。そこからまずは最北の都市・バルドニスを目指す」
「ポータルまでは此処からどのくらいかかるの?」
「徒歩でも十分程度だ。近いぞ、良かったな」
サビィルとロシェルのやり取りをシュウとレイナードが不思議そうな顔で聞いている。さっぱり意味がわからなかった彼等だが、だからって詳細を訊いてもわかる気がしない。知らなくても問題無いだろうと、レイナードはロシェルに寄り添って森の中を歩いた。
「シドは転移ポータルでの移動経験はあるの?元の世界では……どう、なのかしら」
ロシェルの発した言葉の語尾が段々小さくなる。彼の帰るべき場所を思うと、どうしたって気持ちが落ち込む。
「魔法自体が無い世界だからなぁ。『転移ポータル』ってやつも無かった」
「それは不便だな!此処では私のような梟族でも使う程、当たり前の物なのに」と、サビィルが驚いた声をあげた。
「移動手段は主に馬車か徒歩とか、だな」
「街へ着いてからは、私達もそうなるぞ。森までは馬で行く。そこからは徒歩で鱗を探す」
「鱗?誰の鱗を探すの?」
ロシェルがそう問うと、「——知らずに来たのか!」とサビィルが大きな声で叫んだ。
「黒竜の鱗が必要らしい。住処のある森まで探しに行くのが、今回の目的だ」
「それで、シドが何度も危険だと言っていたのね」
サビィルが「今更か!相変わらずだな、ロシェル」と声をあげて、レイナードの肩へと留まった。『呆れた』と言いたげにゆるゆると頭を振り、顔を翼で隠す仕草はまるで人間の様だ。
「ご……ごめんなさい。シドと一緒に行きたい一心で、他の事までは、知ろうとする余裕が——」
「おぉ、愛されてるな!レイナード!」
「あ、あぃ⁈」
レイナードが驚き、サビィルへ慌てながら顔をやる。ロシェルは思いもよらぬ言葉にただ、「……え?」と声をこぼしただけだった。
「——お、見えてきたぞ。あれだあれだ」
そんな二人をサラッと流し、サビィルが言った。
「街と違って、此処は並ばずに使えるのがいい!他の場所は何処も混んでいて、順番を待つのすらも大変だからな」
サビィルが頭を縦に振って、うんうんと言いたげな仕草をする。
「この転移ポータルは、神殿に勤めている者か、私達家族しか使えないの。神殿の中にも、他の神殿へ直接移動出来る簡易ポータルの様な移動用魔法陣があるのよ。ただ、全ての神殿と繋がっている訳じゃないらしいわ。仲の良い神子の神殿だけなんですって」
「べ、便利だな」
レイナードは声が上擦りながらもそう感心してみせたが、先程のサビィルの言葉が頭に引っかかり離れない。『何を戯言を』とは思うのだが、なかなか気持ちが切り替えられないでいる。
「鍵は持って来たわ、これよ」
ロシェルが、腰につけたベルトポーチから緑色に薄っすらと光る鍵を取り出す。その鍵を手に握ると、レイナードへ向けて空いている手を差し出した。
「て……手を握って、シド」
そう言うロシェルの顔が赤い。先程のサビィルが言った一言は、彼女の心にも引っかかったままだったのだ。
「あぁ」と答え、レイナードがロシェルの差し出す手に手を重ねる。無意識にギュッと握り、彼は手に感じる体温に安らぎを感じ、ふっと笑みをこぼした。
その表情を見て、カッとロシェルの顔が更に赤くなった。あわぁぁと、言葉にならない無音に近い音がロシェルからあがる。
そんな二人の初心過ぎるやり取りにサビィルは呆れた顔をしながら「もう時間の無駄だ!行くぞ!」と叫び、レイナードの背中に向かって飛んで、蹴りを入れた。突然の事にレイナードがバランスを崩す。前へと倒れる体を支えようと、彼は咄嗟に転移ポータルへ手を伸ばした。その手が石へと触れる前にサビィルは彼の肩に再びしがみ付き、シュウはロシェルのフードの中へと潜り込み、鍵を持つロシェルは反射的に倒れこんで行くレイナードの体へと抱き着く。
——そんな混乱状態の中。レイナードの手が転移ポータルに触れた瞬間、彼等は一瞬にして目的地である『最北の都市・バルドニス』へと移動して行った。