豪に三度電話掛けたけど、いずれも出ず、折り返しもなかったので、奈美は日を空けて電話する事に決めていた。
(きっと仕事で忙しいに違いない……)
彼女は強引に思い込む。
けど、奈美が全く予想もしなかった所での忙しさだった、という事を知るのは、夏季休暇明けの最初の日曜日だった。
珍しく昼近くまで寝ていた奈美は、あくびをしながら、テレビのスイッチを入れる。
昼前のニュース番組が始まるところだ。
『今月十二日、大手事務機器メーカー、向陽商会のホームページに、男性社員への誹謗中傷の書き込みを行ったとして、名誉毀損罪の疑いで三十歳の女が逮捕されました』
男性アナウンサーのニュースを読み上げる無機質な声に、奈美は弾かれたようにテレビ画面へ釘付けになる。
「え……? 向陽商会…………?」
向陽商会といえば、豪の勤務先。
(男性社員? 誹謗中傷? 名誉毀損罪……?)
『逮捕されたのは、会社員、岡崎優子容疑者三十歳で、岡崎容疑者は『いたずらのつもりで書き込んだ。まさかこんな大事になるとは思わなかった』と容疑を認め、警察は余罪もあると見て、現在慎重に捜査を進めています』
男性アナは、更にニュースを流し続ける。
テレビ画面は、男性アナから刑事に挟まれたノーメイクの女性に変わり、スウェット姿で警察署から出てくる様子が映し出された。
スッピンでも綺麗なこの顔立ちは、彼女も見覚えがある。
「え? 山の日に立川駅前の交差点で…………豪さんと一緒にいた女の人……? それに余罪って……」
(どうなっているの? 男性社員への誹謗中傷の書き込みって…………豪さんの……事?)
あまりにも突然の事に、奈美の頭の中は混乱した。
(もしかして、私が豪さんの携帯番号に電話していた三日間は、あの女の人の件で警察から事情聴取を受けていたの……?)
彼女の心は、ざわめき、ソワソワする。
冷静にならなきゃ、と思い、大きく深呼吸した。
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