TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

それから7年の月日が経った。


辻堂の海には相変わらずサーファー達が良い波を求めてやって来る。



砂浜に一人の女性が座っていた。

女性はレジャーシートの上に座り絵を描いていた。その絵は何かの物語の1ページのようだ。

よく見るとその女性のお腹はふっくらとしていた。妊娠しているようだ。


女性が見つめる先には5歳くらいの男の子とその父親と思われる男性が子供用のサーフボードで波乗りの練習をしていた。

今日は比較的穏やかな波なので小さなサーファーの練習にはうってつけなのだろう。男の子はキャッキャッと声を上げながら、父親と一緒に波と戯れていた。


しばらくすると男の子と父親が海から上がって来た。二人はそのまま絵を描いている女性の元へ歩いて行く。


「そろそろお昼にする?」


女性が声をかけると、


「ママお腹すいたー」


男の子は母親に甘えるように抱きつきながら言う。すると傍らにいた父親と思われる男性は、


「航平今日すごく頑張ったよ。波も怖がらずに偉かったなー」


そう息子に言った。すると航平という男の子は嬉しくてキャッキャッと砂浜を走り始める。


絵を描いていた女性は詩帆だった。

そして海から上がって来た父と子は涼平と息子の航平だった。

そして今詩帆のお腹には二人目の命が宿っている。


あれから涼平は応募した建築コンペで最優秀賞を受賞した。

それを機に一級建築士としての涼平の名はまたたく間に業界に知られる事となり事務所への仕事の依頼が殺到した。

もちろん加納の事務所の知名度もアップした。

そのお陰で事務所は今、以前の小さな事務所から駅前の大きなビルへ移転し事業規模を拡大中だ。


一方詩帆は兄・航太の追悼の日の夜、辻堂の海で涼平からプロポーズをされた。もちろん詩帆はすぐにOKの返事をし、その後二人は結婚した。


詩帆も応募していたカフェのコンテストで大賞を受賞した。

他の大賞受賞者と共に詩帆の絵はポスターとなり全国のカフェに一斉に張り出された。

そしてその絵に目を留めた出版社から、絵本の仕事が舞い込んできた。


結婚してから一年間詩帆はその仕事に打ち込む。そして絵本は無事に仕上がった。

その時出版された絵本は、


『星になったおにいちゃん』


というタイトルだった。

詩帆の絵本はまたたく間に売り上げ数を伸ばしその後シリーズ化されて、


「海の色はあおいの?」

「海に落ちた星をすくう」


という二冊の続編も出版された。

この頃から詩帆は一躍人気の絵本作家となった。


一冊目の絵本が出版されると同時に妊娠が発覚し、その後生まれたのが航平だった。


「航平」という名前は涼平が名付けた。

兄・航太の一文字を取ってつけてくれた事が詩帆にとってはとても嬉しく、また詩帆の両親にとってもこのうえない喜びで詩帆の母は涙を流して感謝していた。

兄の死後鬱状態が続いていた母は、涼平という義理の息子が出来た事と航平というかわいい孫が生まれた事により信じられないくらいにぐんぐんと回復していった。

今では詩帆が絵本の仕事で忙しい時に、孫の世話をしに甲斐甲斐しく家まで来てくれる。

詩帆は涼平と母親のサポートを受けながら、二人目を妊娠した今も絵本作家の仕事を続けていた。


「ママーッ! たまごやき、またこげてるよー」


航平は焦げた卵焼きをフォークに刺して持ち上げるとキャッキャと笑いながら言った。


「航ちゃんごめんー! ママ、やっぱり料理は苦手だわー」


詩帆がそう言った瞬間、涼平が航平のフォークを掴んでフォークの先の焦げた卵焼きをパクッと食べた。

そしてこう言った。


「パパは焦げていてもママが作った玉子焼きが好きだなー」


涼平は美味しそうにもぐもぐと食べた。

それを見た航平が、


「パパずるい! それぼくのー!」


と叫んで涼平に抱きつくと涼平の頬を小さな手のひらで挟んだ。

すると涼平は「もう食べちゃったよー」と言ってから航平を抱き上げて高い高いをした。

すると航平はまたキャッキャとはしゃぎ始めた。


そんな二人の様子を詩帆はとても幸せそうな表情で見つめていた。


詩帆の左手薬指には結婚指輪と共にあの日下田で涼平がプレゼントした銀の指輪がはめられていた。


辻堂の海は、


詩帆の兄・航太がサーフィンをしていた頃も

そして涼平と詩帆が出逢った頃も

そして今も


いつの時代も変わる事なく同じ風景を見せてくれる。

その変わらない風景の中で紡がれる人々の物語は、これからもこの先もずっと永遠に続いていくのだろう。

それはまるで繰り返される波のように。


<了>

loading

この作品はいかがでしたか?

439

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚