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はごろもまごころ

10 - 第8話 翻訳された炎上

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2025年09月07日

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第8話 翻訳された炎上

配信


「こんばんは、“はごろもまごころ”だよ!」


画面に現れたまひろは、今日はシャツに赤いサロペット姿。膝に子ども用の絵本をのせて、無邪気な瞳をきらきら輝かせている。前髪は相変わらずのぱっつん、足元にはカラフルなスニーカー。


隣のミウは、ライトグレーのニットに淡い水色のプリーツスカート。首元には細い銀のネックレスが揺れ、髪は耳の横でまとめている。柔らかな笑みを浮かべ、見守るような視線をカメラに送っていた。


まひろが少し不安げな表情で言った。

「ねぇミウおねえちゃん。海外の俳優さんがインタビューで言った言葉、ちょっと気になっちゃったんだ」


コメント欄がざわつく。「あの人?」「ニュース見たよ」と視聴者の反応が飛ぶ。


「翻訳された記事では、“日本の作品は古臭い”って……ほんとにそう言ったのかなぁ? 僕、なんだか心配になっちゃって」





疑惑の芽生え


ミウが首を傾げ、ふんわり笑う。

「え〜♡ もしかしたら、翻訳でニュアンスが変わっちゃっただけかもしれないけどぉ……でも、もし本当にそう思ってたらちょっと寂しいよねぇ」


「うん……僕はただ、みんなに“ほんとの気持ちなのかな”って考えてほしいんだ」


コメント欄には「失礼すぎる」「いや翻訳のせいかも」と意見が割れる。小さな疑問が大きな波になる予兆だった。





レイNews記事化


翌日、「レイNews」には記事が並んだ。


  1. 海外俳優X氏、日本文化に“古臭い”発言か



  1. SNSで怒りの声「侮辱された気がする」



  1. 過去のインタビューを検証 “時代遅れ”発言の真意



  1. 専門家「翻訳のズレに注意」だが誤解は拡大



  1. ネット上でボイコット運動の呼びかけも




実際の原文では「クラシックな魅力がある」という文脈だったが、「古臭い」に意訳されて記事化されていた。

本文は“翻訳の可能性”にも触れていたが、見出しの強烈さで人々の印象はすでに固まっていた。





群衆の暴走


SNSでは「日本を馬鹿にしてる」「もう応援しない」という怒りの声が拡散。

まとめサイトは「海外俳優X氏、差別発言か」と見出しを打ち、ワイドショーではスタジオに字幕を出して「古臭い」という言葉を繰り返した。


一部のファンは「誤訳だ」と擁護したが、その声は「擁護するのは売国」と叩かれ、分断が深まる。

やがて映画配給会社は公式に謝罪を発表し、公開予定だったキャンペーンは中止に追い込まれた。





クライマックス


数日後、海外俳優XはSNSで「そんな意図はなかった」と自国語で否定コメントを出した。

しかしその投稿さえ「言い訳」として切り取られ、再び記事化された。


「逆ギレか? 否定声明で火に油」





結末


夜の配信。

まひろはサロペットの胸ポケットを指でいじりながら、無垢な瞳で言った。

「僕……ただ“ほんとにそう言ったのかな”って思っただけなのに」


ミウはにっこり笑って首をかしげる。

「え〜♡ でも、みんなが考えるきっかけになったんだから良かったんだよね。

やっぱり言葉ってこわいねぇ♡」


コメント欄は「気づかせてくれてありがとう」「これから気をつけたい」と賛同であふれた。


その裏で、ミウのパソコン画面には次の記事の下書きが並んでいた。

“翻訳チェック”を名目に、別の海外発言を切り取る準備が着々と進んでいた。





無垢な疑問とふんわり同意、その裏でひとつの文化交流が断ち切られていった。

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