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#勧善懲悪
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説明会の翌日から、箱庭座では内覧会が始まった。
入口には白い布が何枚も垂れ、昔の劇場らしい木の匂いは、甘い香りの機械で上書きされている。足元には柔らかな灯り、天井には流れる映像。来場者は案内に従って歩くだけで、未来の暮らしを見た気分になる仕掛けだった。
「きれい……」
思わずそう漏らす人もいる。
それが腹立たしいほど、よくできていた。
サペは壁際を歩きながら、昔の舞台袖の位置を目で追った。祖父に連れられて来た時、ここには人形の腕が並び、奥では誰かが糸をほどいていた。いま同じ場所にあるのは、光る模型と、笑顔の家族写真だけだ。
エリアが低くつぶやく。
「昔の傷まで塗りつぶして、最初から自分たちの場所みたいな顔してる」
通路の先では、テオハリが若い夫婦へ調子よく話しかけていた。
「こちらの区画なら、公園も近いですよ。お子さんにも最適です」
その言い方がうまい。困りごとを先回りして拾い、安心させる声の高さまで計算されている。
けれどサペの耳には、別の音も入っていた。
壁の裏。元の控室があった方角から、木箱を引くような重い音がする。
リボルがさりげなく視線を送ってきた。聞こえたらしい。
内覧会の終盤、来場者には簡単な感想用紙が配られた。出口の箱へ入れて帰る仕組みだ。
マイナはその箱を見た瞬間、表情を変えた。
「……きれいすぎる」
「何が」
ズジが聞く。
「まだ始まって一時間なのに、賛成の紙ばかり同じ向きで積まれてる」
拍手も、笑顔も、感想まで。
この熱気には、誰かの手が入りすぎていた。