かつての恋人、岡崎優子は、とんでもない女だった。
夏季休暇明けの勤務初日。
出勤すると、部署内で既に出勤している同僚たちが、一斉に豪を凝視する。
取引先と何かトラブルがあったのかと思い、隣のデスクにいる同期に聞いた。
「うちのサイトの問合せ欄に、匿名で本橋の事を誹謗中傷する内容が、書き込まれたんだよ」
「何だって?」
豪は眉間に皺を刻ませると、即パソコンを立ち上げ、内容を確認する。
『向陽商会の本橋豪は、女を罵倒するモラハラ男だ。今すぐ解雇する事を望む!』
こんな内容を書くヤツに心当たりはあった。
元カノの優子だ。
夏季休暇初日の山の日。
完全に縁を切るためにアイツと会い、豪の事がまだ好き、と復縁を迫ってきた。
彼は、既に奈美の恋人でもあったし、優子と寄りを戻すつもりは一切ない、と何度も言ったはず。
奈美のメッセージアプリのIDを消去され、豪も頭にきたから、あの女のIDを通信拒否にし、目の前でIDを消した。
もしかしたら、それが悪かったのかもしれない。
だが、嫌がらせや危害を加えるのだったら、警察に通報する、とも言ったはずだ。
出勤してすぐに、豪は上層部から呼び出しを受けた。
会議室に来るように言われ、エレベーターに乗り、八階を目指す。
会議室のドアの前で大きく深呼吸した後、三度ノックしてドアノブを掴んだ。
「失礼します」
彼が深々と一礼すると、会議室にいた役員連中に、鋭利な視線を向けられた。
無音の空間が今の豪にとっては、生きた心地がしない。
「この度は、私事で会社に多大な迷惑をお掛けして、大変申し訳ありませんでした」
彼が再度、深くお辞儀をすると、専務が口を開いた。
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