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朧は澪の手をそっと握ったまま、静かに息を吸った。
「澪さん。あなたに⋯⋯話さなければならないことがあります」
「⋯⋯つまり⋯⋯朧さんの”秘密”⋯⋯?」
「はい」
朧の金色の瞳が、どこか決意を宿して澪を見つめる。
「私が花嫁を求めたのは⋯⋯ただの儀式のためではありません」
「⋯⋯儀式、ではない⋯⋯?」
朧はゆっくりと頷いた。
「私は⋯⋯異界と人間界の境を守る”守護の狐”です。
しかし、その力は⋯⋯長い年月の中で少しずつ弱っていきました」
澪は息を呑む。
「力を保つためには⋯⋯”人の心”が必要なのです」
「人の⋯⋯心⋯⋯?」
「はい。人の想いを受け取ることで、私は存在を保つことができます」
澪の胸がざわつく。
(⋯⋯じゃあ、私が”花嫁”に選ばれたのは⋯⋯
朧さんが力を保つため⋯⋯?)
朧は澪の表情を読み取ったように、そっと首を振った。
「誤解しないでください。私は⋯⋯誰でもよかったわけではありません」
「⋯⋯え?」
「あなたの心は⋯⋯とても澄んでいて、温かい。
初めてであったときから⋯⋯私は惹かれていました」
澪の胸が跳ねる。
「では⋯⋯どうして”仮の花嫁”なんて⋯⋯?」
澪の問いに、朧は少しだけ目を伏せた。
「あなたを⋯⋯縛りたくなかったのです」
「⋯⋯縛りたく⋯⋯?」
「本当の花嫁になれば、あなたは私の世界に深く関わることになる。
危険も多い。だから⋯⋯”仮”という形で、あなたの自由を残したかった」
澪は胸が熱くなるのを感じた。
(⋯⋯朧さんは⋯⋯私を守るために”仮”にしたんだ⋯⋯)
「ですが⋯⋯」
朧は澪の手を強く握った。
「あなたが⋯⋯”私が好きだと”言ってくれた時⋯⋯
私は初めて⋯⋯あなたを本当の花嫁として迎えたいと思いました」
「⋯⋯っ」
「契約ではなく⋯⋯あなたの想いに応えたいと⋯⋯
心から思ったのです」
澪の目に涙が滲む。
「朧さん⋯⋯そんなふうに思ってくださって⋯⋯嬉しいです⋯⋯」
朧は澪の頬にそっと触れた。
「澪さん。あなたが望むなら⋯⋯私はあなたを”本当の花嫁”として迎えます」
「⋯⋯望みます」
澪は迷わず答えた。
「私は⋯⋯朧さんのそばにいたい。
危険があっても⋯⋯あなたと一緒にいたいです」
朧の瞳が揺れ、そして静かに微笑んだ。
「⋯⋯ありがとうございます。澪さん」
ふたりの距離は、もう戻れないほど近づいていた。