「じゅ……純…………さ……ん……」
彼女の名前呼びが、よほど嬉しかったのか、純が目を細めて白い歯を覗かせた。
「恵菜さんからの名前呼び…………すげぇ嬉しいし……俺の名前を呼ぶ恵菜さん…………すっげぇ可愛い……」
恵菜の髪に、柔らかなものが押し当てられると、節くれだった指先が、緩やかにうねる髪に滑らせていく。
「ああ、そうだ。今、俺を呼んだよな?」
「あの…………寝る時、私は…………ソファーで寝ればいいんですよね?」
躊躇いがちの恵菜の確認に、彼が華奢な身体を閉じ込めていた腕を緩めた。
「…………俺、今夜は君を抱きしめていたいって…………言ったよな?」
純は微笑みを湛えつつ、口角を片側だけ器用に上げている。
「…………え?」
困ったような彼女の表情に、彼は小さな手を引くと、リビングの明かりを消灯させ、すぐ右手にある寝室のドアを開いた。
純が寝室を仄暗く調光させているのを横目に、恵菜は部屋の中を見回した。
広めの寝室は、窓際にダブルベッドが設置してあり、横にはサイドチェストが置かれている。
備え付けのクローゼットと、壁には大きな全身鏡が置かれてあるだけの、無駄のない空間。
(純さん、私が考えている事はしないって約束してくれたけど…………本当は……)
「あ……恵菜さん、もしかして…………俺が恵菜さんに、如何わしい事をするって思ってる?」
恵菜の考えている事を手に取るように、純がそっと彼女の肩を抱き寄せてきた。
「俺みたいな男に、恵菜さんが警戒するのもわかる。でも俺は…………恵菜さんの意思を無視して抱こうなんて思わない。いつか、俺に抱かれたいって思った時に…………君を抱きたい。キスはするかもしれないけどな」
彼に誘われ、ベッドの縁に腰を下ろすと、すぐに彼の腕の中へと引き寄せられる。
「だから、今夜は、恵菜さんを抱きしめながら寝る」
彼の腕が腰に回され、恵菜の心臓が大きく跳ね上がった。
「あの…………た……じゃなくて…………純……さん……」
「恵菜さん、どうした?」
笑みを含ませた純に、間近で顔を覗き込まれた彼女は、華奢な身体が熱っていくのを感じながら彼を見上げた。
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