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第13話:恋人契約システム
週の半ば、朝の校門前に突如として現れた仮設ブース。
白と赤の配色が目を引くそのテントには、レンアイCARD株式会社のロゴが掲げられていた。
ブースには数名のスタッフが立ち、配布用の書類とタブレットを並べていた。
一部の生徒たちが列を作り、手続きを進めている。
今週から導入されたのは、「恋人認証契約」システム。
恋レアスコアが一定以上のペアに対し、アプリ内で“正式に恋人関係を申請する”ことが推奨される制度だった。
スコア上位同士のカップルは、契約を交わすことで次の特典が付与される。
演出効果の強化(時間延長や感情再現率の向上)
限定カードの配布
校内ランキングでの表示がゴールド枠になる
それはまるで、恋愛が“認可制”になったような仕組みだった。
教室では契約したペアが注目を浴びていた。
手をつないで入ってきた男女ふたり。
男子はジャケットを少し着崩し、女子はスカートの丈を短くして、自信ありげに歩いていた。
ふたりの制服には、恋人契約を交わしたことを示す《Rマーク》のピンバッジがついていた。
天野ミオは、そのピンバッジを見つめながら席に着いた。
今日の彼女は紺のカーディガンを羽織り、前髪の奥にある目だけがその場を静かに観察していた。
周囲の女子たちは、新しい契約制度に心を躍らせていた。
恋レアはもはや“カード”ではなく、“身分”になり始めていた。
しかし一方で、契約から外れた者への目線も生まれていた。
アプリ内のチャットグループでは、“未契約者一覧”という非公式リストが出回り、誰と誰が“関係未確定”であるかが話題になっていた。
ミオの名前も、そこにあった。
昼休み、図書室の隅で本を読んでいたミオの元に、声が届いた。
トキヤだった。白シャツに黒のカーディガンを羽織り、髪は無造作に落ちている。
彼はスマホをポケットに突っ込みながら、椅子に腰を下ろした。
静かな声で、彼は一言だけ言った。
契約にしなければ成り立たない関係なら、それは本当に“恋人”と呼べるのか。
ミオは返事をしなかった。けれど、彼の隣で小さく頷いていた。
ふたりの前にあった机の上。
彼女のカードファイルには、未使用のままの《共感》《告白》《再定義》が並んでいた。