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「うそ……」
「嘘じゃないよ! 誓って」
凱人さんが慌てて首を振る。
それにつられて、私も首を振る。
「そういう意味じゃないんです! その、凱人さんが嘘を言っていると思っているわけではなくて、その、凱人さんのような素敵な男性《ひと》が私みたいな――」
「――るりちゃん。容姿とか、親戚が経営者だとか、そういうことは気にしないでほしい。俺はるりちゃんを可愛いと思うし、恋人になりたい。だから、るりちゃんの気持ちだけで考えてほしいんだ」
「でも……」
懇願するようにじっと見つめられて、恥ずかしいのに目を逸らせない。
そして、改めて思う。
カッコいい……。
私より肌が白くて、吹き出物もなくて、私より睫毛が長くて、鼻も高い。私のように顎に余計な肉もついていない。
顎だけじゃなくて、腕にもお腹にも足にも肉なんかないけど……。
前に一緒に行ったコンビニで、私と一緒にいると凱人さんが笑われてしまうことはわかっていたのに、誕生日を祝ってもらえることが嬉しくて、つい自分の欲を優先してしまった。
そうよ。今日一日、周囲からどんな風に思われていたか――。
私は弱い。
ダイエットを頑張る精神力がなくて、恋ができない理由をおかしな勘のせいにした。
せっかく今、一生に一人、出会えたことが奇跡のような極上イケメンに好きだと言ってもらえたのに、自分の弱さと醜さのせいで素直に喜べない。
こんな私なんか、凱人さんに相応しくない――っ!
そう思った瞬間、ついさっきの凱人さんの言葉を思い出した。
『俺の大事なるりちゃんを『なんか』なんて言っちゃだめだよ』
喉の奥が熱く、唇が震える。
泣きそうになって、私はそれを見られまいと顔を伏せた。
「凱人さんの気持ちはすごく……嬉しいです。でも――」
「――待って」
凱人さんの大きくて温かい手が、私の頬に触れ、そっと力を入れて私の顔を上げさせた。
その拍子に、薄く瞳を覆っていた涙の膜がした睫毛を濡らした。
「すぐに返事をしないで」
「え……?」
「るりちゃんに、恋人にしてもいいって思ってもらえるように、頑張らせて」
「頑張るなんて! そんな――」
「――でも俺、フラれそうじゃない?」
凱人さんをフルなんて、恐れ多い!
凱人さんの目尻が下がり、わかりやすく寂しそうな表情になる。
ドキッとした。
彼の背後に桜の花びらが舞って見える。
絵になる、ということだ。
そして、いくら私が恐れ多いと思っても、事実はそういうことなのだ。
「るりちゃん、今日は楽しんでくれた?」
「はい」
「本当に?」
「本当です! 人生で一番、最高の誕生日でした」
「他の人からどう思われているか、気になった?」
「え?」
言われて、気が付いた。
今日はずっと楽しくて、ドキドキして、並んで歩いても、カフェにいても、周囲の視線や声は気にならなかった。
ずっと、凱人さんばかり見ていた。
「俺は気にならなかったよ」
「凱人さん」
「楽しくて、るりちゃん以外は見ていなかったから」
私と同じ……。
「これからも、こうしてるりちゃんと一緒にいたいんだ。だから、るりちゃんの気持ちだけを聞きたい」
「私の気持ち……は……」
そんなのは考えるまでもない。
でも、口に出す勇気がもてない。
「抱きしめていい?」
「え?」
「嫌なら噛みついて」
か、噛みつく――!?
凱人さんはなぜかにっこり笑って、ぎゅっと私を抱きしめた。
いい匂いがする。
ツンツンしていて硬いのかなと思った髪の毛はそれほどではなく、頬に触れるとくすぐったい。
私の二重顎がのっかった彼の肩はすべすべで、私の歯形を残すなんて大罪を犯せるはずもない。
なによりも、嫌だなんて思ってない。
密着した胸がトントンとノックされるような感覚がした。
軽やかに、けれどかなり速くリズムを刻むそのノックが、凱人さんの鼓動だとわかるのに、そう時間はかからなかった。
私を女として意識してくれているのだと、女として好意を持ってくれているのだと、言葉以外でわかり、涙が溢れだす。
拭いたくても、両手ごとしっかり抱きしめられていて、それもできない。
「相棒としてこれからも一緒に仕事をしていくなら、本当はこんなことを言わない方がいいってわかってるんだ。社内恋愛は大変そうだし。でも、るりちゃんの誕生日を一緒に過ごせて、こんな風に俺の部屋で俺の服を着てるるりちゃんを見てたら、我慢できなくなった。ごめん」
「あやまら……ないで……」
「好きだよ。絶対、めちゃくちゃ大事にするから」
「……っ」
彼が私の何をそんなに好きになってくれたのかはわからないし、言われてもきっと信じられない。
けれど、彼の言葉が真実《ほんとう》なのは、わかる。
あとは、私の勇気だけ……。
「凱人さん。少しだけ、待ってください」
「……うん」
凱人さんの、私を抱きしめる腕に力がこもる。
より一層、彼の鼓動を近くに感じて、きっと私の鼓動も彼に伝わっているのだろうなと思う。
なんだか、心臓同士が会話をしているようだなと思った。