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『ジクウ旅絵巻』
画家オークションで、 磁馬の絵が高額落札された。
「夕方が終わり続ける駅」 「波が寄せ続ける海辺」 「雨が消えない橋」
そんな“時間の残る絵”は、 時代を越えて評判になる。
気づけば磁馬は、 旅費に困らなくなっていた。
もちろん、 時代を渡るには金がかかる。
昭和の紙幣。 江戸の小判。 未来圏の移動信用。
時代ごとの換算、 記録管理、 移動申請、 時代金手数料。
未来で稼いでも、 そのまま昔では使えない。
しかも磁馬は、 「食べ物はその時代で買う」 「使ったものは元の時代で処理する」 「落としたものは見つかるまで帰らない」 という面倒な決まりを守っている。
だから金は、 意外と減る。
それでも、 絵は売れ続けた。
そして磁馬は思う。
「寄り道、いっぱいできる」
それが、 『ジクウ旅絵巻』の始まりだった。
本編『ジクウ画家』が、 町や人との出会いを描く物語なら、
『ジクウ旅絵巻』は、 “描きたい景色を探しに行く旅”の話になる。
江戸の宿場町で富士山を見る。
昭和の喫茶店を何軒も巡る。
未来駅で駅弁を食べ比べる。
雨の日だけ現れる橋を探す。
海辺で波を描き続ける。
古本街で紙の匂いを追いかける。
夕方の線路を何時間も眺める。
旅の目的は、 名所そのものではない。
「途中にある時間」を描くこと。
店が開く前の市場。
団子の湯気。
雨上がりの匂い。
列車が通ったあとの風。
宿へ向かう坂道。
古本の間に残る誰かの指跡。
磁馬は、 観光地より、 その周りにある小さな時間を気に入る。
もちろん、 毎回なにか失くす。
ペン。 包み紙。 栞。 時計。 切符。 小銭袋。
そのたび、 旅先で出会った人たちと一緒に探し回る。
未来植物園の案内係。
団地の子供たち。
峠茶屋の娘。
古本屋の少女。
駅員。
魚売り。
そして、 探し終わったあとに飲む茶や、 食べる団子が妙にうまい。
磁馬は毎回、 少しだけ旅先へ馴染む。
けれど、 長く留まりすぎない。
線を描き終えると、 また別の時代へ歩いていく。
絵の中では、 旅の時間が静かに続いている。
波が寄せ続ける。
煙が揺れ続ける。
線路の影が伸び続ける。
夕方が終わり続ける。
そして磁馬は、 どれだけ絵が売れても、 高い宿より古い旅館を選び、 知らない町の団子屋へ寄り、 荷物を何度も確認しながら歩いている。
旅のしかただけは、 ずっと変わらなかった。
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コメント
1件
あー、もう、これ好きすぎる…🥺💘 「時間の残る絵」っていう発想、すごくない? 磁馬くん、売れてるのに宿は古い旅館で団子屋さんに寄るって、もうその人柄が尊すぎるよ…。 旅の目的が“名所じゃなくて途中にある時間”っていうのが、本当に沁みる。 私もあの夕方の線路、ずっと眺めてたいなあ… 次はどんな時間を描くんだろう、楽しみにしてるね🌙🎨