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放課後の相談室は、いつもより少しざわついていた。窓の外から、部活帰りの笑い声が届く。 

ドアをノックしたのは、一年生の男子だった。小柄で、人懐っこい雰囲気をまとっているのに、どこか影が差している。


「……失礼します」


「おう」


日下部が顔を上げると、彼は椅子に腰を下ろした。机の上で手をもてあそびながら、言葉を探すように黙り込む。


「……友達のことなんですけど」


ぽつりと声が落ちた。


「一緒にいる子がいて、最初はすごく気が合ってたんです。でも最近、温度差を感じるんです」


日下部は黙って耳を傾ける。


「僕は、もっと気楽に一緒にいたい。でも向こうは、毎日のようにLINEしてきたり、グループ行動でも『絶対一緒にいよう』って決めてきたり……正直、ちょっと重くて。けど、それを言ったら傷つける気がして」


彼の言葉は途切れがちだった。


「……僕が冷たいのかなって。ちゃんと合わせられない僕が悪いのかなって」


日下部はしばらく黙ってから、窓の外に目をやった。


「……なるほどな。お前にとっては“ちょうどいい距離”が、相手にとっちゃ“足りない”ってわけだ」


「……はい」


「それな、別にお前が悪いわけじゃねぇよ」


「……ほんとですか」


「人間関係は温度差があって当たり前だ。問題は、それを言わずに抱え込むと、相手も『嫌われたのか』って余計に不安になる。お前もしんどいまま」


男子は目を伏せる。


「でも、どうやって言えば……」


「正直にだよ。ただし“嫌だ”じゃなくて“こうしてくれると助かる”って言い方な」


「……たとえば?」


「『LINEは返すの遅いかもしれないけど、ごめん』とか。『一緒に行動したい気持ちはわかるけど、たまに一人でいたいときもある』とか」


男子は小さくうなずいた。


「……相手を嫌いじゃないって伝えることが、大事なんですね」


「そういうこと。嫌いじゃないのに無理に合わせすぎると、そのうち本当に嫌になっちまうぞ」


相談室の時計が、静かに時を刻んでいた。

男子は少しだけ笑った。


「……言えるかな。緊張するけど」


「緊張していい。大事なのは言うことだ」


立ち上がった彼の背中は、まだ頼りなかった。けれど先ほどよりも、ほんのわずかに軽やかに見えた。


日下部は一人残された部屋で小さく息を吐く。


「……俺も、人との距離感なんてよくわからねぇけどな」


ぼそりと漏らしたその声は、誰にも届かず、窓の外の夕風にさらわれていった。

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